こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜

彼女の言い分

理恵とともに入ってきた彼女は、
何というか
緊張した中にもちょっとした敵意を見せて
樹を見てから
私に挨拶をした。

「初めまして。
西澤室長の部下だった斉木史織です。」

真っ直ぐに私を見つめてそう言った。
可愛い容姿の子だった。

「西澤 茉里です。」

私は樹の家内ですとも何も言わずに名前だけを告げた。
しばらく
無言のまま見つめあった。

彼女には、
私に謝罪する意思はないようだ。

「斉木さん、こちらにおかけになって。」

理恵が私と向かい合う席で、
樹とは対角線上の席に案内をした。

「今日はまず
それぞれの言い分を聞かせていただこうと思っています。
あいにく、私は西澤さんとも茉里さんとも大学時代からの友人です。
がしかし、
今は弁護士という立場で対応させていただきますので、不当に斉木さんを
中傷したりすることはございません。
ただ、西澤 茉里さんの代理弁護人ですので、もし斉木さんがこれが不当だと
思われたら、後日、そちらも代理弁護人を立てられて、話し合いに望まれて
結構です。」

理恵が、彼女に尋ねる。

「いえ、今日で終わらせられるなら今日で終わりにしたいです。
私は週明けには故郷に帰って、新しい生活を送るつもりですから。
引きずって、親を巻き込みたくありません。」

思いの外
しっかりとした対応をする。

「発端はラブホテルの前で西澤さんの娘さんに見つけられたということですね。」

「そうです。」

「あなたたちはそういう関係でいらした?」

「違う!」

樹が大きく理恵の質問を否定する。

「今は斉木さんにお尋ねしています。」

「すまん。。。。」

樹は両手を膝の上で握りしめて、眉間に深いしわを寄せている。

「私は入社した時から室長が好きでした。
仕事は、自分が配属希望を出した部署と違って
、一番苦手と思う部署で
仕事を覚える気力もあまりなかったのですが、
室長がいたから毎日会社へ通うことが、楽しみでした。
でも1年しても、仕事にも部署にもなれずに辞めようかと、
思っていたところ先輩に
徹底的に叱られて、非常階段口で泣いていたところを室長に見つかって、
慰めてもらって
そこから気にかけてもらって、室長のアシスタントにしてもらいました。
部署内で、エコ贔屓だ室長を泣き落としたなどと陰で色々と言われましたが、
平気でした。
毎日、室長と一緒に仕事ができるんですもの。」

滔滔と喋る彼女に
樹のことを一途に思う可愛らしさは感じなかった。
意地の悪い見方かもしれないが、樹が彼女の思い通りに彼女の手の内に
落ちて行った気がする。
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