王子のパンツを盗んで国外逃亡させていただきます!
「──『したかった』って、君は俺と結婚することに決まっているのに。何を言ってるのリジィ?」

「!!!!」

 聞き慣れた声のした方向へ勢いよく顔を向けると、今の時間はヒロインとダンスを踊っているはずのカインが重厚なドアにもたれるように立っていた。

 柔らかく艶やかな黒髪。太陽が沈む直前の空の色みたいな紫色の瞳。高い鼻梁と薄い唇は計算され尽くした彫刻のように整っている。

 尊い。白い軍服に似た王族の正装姿のカイン本気で尊い。この顔で182センチの長身で軍服(に似た正装)姿とか反則的なくらい尊い。何度見ても鼻血出そう。

 あ、うん。さすがに今はそんな場合じゃないですよね。


「カカカカカカカカイン?! いつから聞いてっ?!」

「うん。『カインのバカぁ、なんで私には唇へのキスすらしないのよぅ』の辺りかな?」


 だいぶ台詞が簡略化されてるけどそれってだいぶ最初の方からですよね?!

「あの子と踊るんじゃなかったの?!」
「あの子……って誰のことかな。俺は自分の婚約者以外と踊る予定はないのだけど?」
「ほらっ、茶色い髪でピンクのドレスのっ! カインの前で転んじゃった女の子……っ」
「あぁ。エリナ嬢のこと?」

 そうエリナ! ヒロインのデフォルト名!
 やっぱりあの子はヒロインだった。目の前で起きたあれは出会いイベントだったのだ!

 だけれどその事実を受け止めるより。
 長い足で優雅に私に近づいて来るカインが。
 カインの全身が冷気に似た怒気を発しているようでそちらの方が気になって仕方がない。

「エリナ嬢はちゃんと彼女の友人が迎えに来たよ。それより。リジィが泣きながら俺の部屋に入って行ったって報告があったから急いでここに来たんだけど……」
「あ、王子の私室に入るのに、誰にも止められないからおかしいなー? セキュリティどうなってるのかなー? と思ってたんだけど、やっぱり報告があったのね?! ちゃんと警備がしっかりしてて良かった……っ」
「うん。警備をつけているのは、部屋に対してじゃないんだけどね?」


 一歩一歩。毛足の長い絨毯の上をカインが進むたびに。
 一歩一歩。彼と私の距離が縮まるたびに。
 部屋の空気がズンと重くなっていく。


「俺の大事なお姫様が泣くなんて。もしかして君の美しさに目が眩むあまりに命がけで不埒な真似を働いたゲスでもいたのかと焦ったのだけど」

「不埒な真似って、痴漢ってこと? や、やだなぁカイン! いくら痴漢相手でもさすがに命取ったりしないわよっ? 股間蹴りあげるくらいよっ?」

「君に俺以外の男が触れるなんて。リジィがそれで許しても、俺が許すわけないでしょう?」


 ねぇ! 怖い!
 なんか、カインが怖い!!
 なんか、前世で散々見たバッドEDの時みたいな目をしてるんですけど?!




「──ねぇリジィ。俺のいない他の国へ行くって、どういうこと?」




 瞬間。何かを考えるより早く。
 ベッドから飛び降りてドアへ向かってダッシュする。


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