心理作戦といこうか。
全ての窓を開けた時は。
side玲


結婚式が終わったのと真琴の妊娠をきっかけに今住んでいるマンションからファミリータイプの低層マンションへ引っ越す事になったわけだが。
いずれは転居をと考えていたが、以前からエントランスから部屋まで時間がかかるだの、忘れ物した時に戻るのが大変だの言われていたのでとうとう決断に至った。

自分の作業はというと書斎の部屋の片付けから始める事にした。
クローゼットを開けるが殆ど服はないので後回しに。
一番散らかっているデスクに移り、pcを起動させる。

「ふ~ん、なるほどね~俺の兄貴は重いなあ~
 え?なになに?『真琴が初めて玲君と呼べた日』…」

「あ!おい!!」

pcの操作に夢中になり、いつの間に部屋に入っていた千草に気付かなかった。

「別に良いだろ?減るもんじゃない。
 それよりもこのコメントなに?
 本気でヤバい人ってことかよ……」

「減る。」と引っ越しの手伝いを勝手出た弟の千草の手からアルバムを奪い返す。

小豆色のアルバムは本棚に閉まってしまえば、一見普通の単行本と見間違う程作りが良く出来ている。

「で?このアルバムを見る限り兄貴はストーカーなんだけど」

「はあ?アルバムくらいでストーカーはないだろ?
 単純に思い出を綴っているだけだ」

「別に否定するつもりはないよ?
 でもさ、この一言メッセージみたいなやつが怖いって!
 真琴が兄貴の頭の中知ったら驚き過ぎてひっくり返るじゃないの?」

それは困る。
真琴は今、妊娠七ヶ月だ。
『臨月ぎりぎりまで働こうか悩んでるんだよね』と相談を受けた時は開口一番、悩むことなく『だめだ。』と止めたな。
このエピソードも思い出すと今は笑って話せる。
その時は鬼の形相だったと彼女には言われるが。
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