ステレオタイプの恋じゃないけれど
ンだそれ。
なら何で「本気なら」だとか吐かしたんだ。
つうかもう! 認めるけど! 俺だってナギサちゃんが好きだわくそがッ!
「ねぇゲンくん」
「んー?」
「明日、これ観ない?」
なんて、言えるはずもなく。
悠真から衝撃の事実を聞かされた二日後の、定休日前夜。日課のドライヤータイムが終わったタイミングで「ありがとう」と言いながら、彼女は携帯画面を俺へと見せてきた。
「あ、これ。シリーズの最新作!」
「そう。やっぱ今までのも観てる? 私これ好きなんだけどさ、ゲンくんと私、好きなもの結構似てるし、ゲンくんも好きかなぁ~って」
「めっちゃ好き」
「なら、明日は映画ね」
悠真のせいですっかり忘れていたが、画面に映っているのは、先日公開されたサイコスリラー映画だった。シリーズもので、今作は五作目にあたる。監督のみが同じで、どの作品も毎回キャストは総入れ替え。シリーズ作品の全てが、全く違う場所で同時刻に発生している、というコンセプトなので、主人公や主要人物が引き継がれているということがない。そのため、どの作品からでも取りかかれるのもまた、魅力のひとつだろう。
俺は特に、七年前に公開された三作目が好きだ。作中で、サイコパス役の俳優さんが死体を引きずりながら鼻歌を歌うというシーンがあるのだけれど、何でもそれはアドリブで、しかもその鼻歌というのが、俳優さんがたまたま通りかかった公園のジャングルジムの上で、女子高生が「ら」のみで歌っていたものだという逸話があるのだから驚きだ。その俳優さん曰く、「ら」のみで形成された旋律に【鬱くしい闇】を感じたらしい。字面はやばいが。
もちろん、今作だって観たい。ぜひとも、お供したい。
「……あ、でも、さ、」
「ん?」
「えと、ほら、悠真、落ち込んでたし、」
「……」
「さ、そってみれば? 悠真もそれ好きだったはずだし」
と、そこまで思考して、はたと気付く。
これ、俺が一歩、否、四歩か五歩くらい下がれば、めでたくふたりは隣り合って人生を歩んでいけンじゃねぇの、と。
まぁ、俺的にはめでたくなんてないけど。心からは祝えないが、表面だけなら祝ってやらンこともない。