推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
 西浦さんはズカズカと音がするのかと思うほどの大股で近づいてきて、ドンッと持っていたお茶をテーブルに置く。俺はゴクリと生唾を飲み込んで、何かを期待したが、西浦さんは俺がもっているお弁当が入った紙袋を凝視していた。ああ、きっとお腹が空いているのだろう。早く食べさせてあげなければ……。俺は紙袋から重箱を取り出し、テーブルの上に並べていく。
 
 
「運動会? いや、行楽に来たみたいですね」
 
 
 驚きの表情の西浦さんは、俺が作った重箱入り弁当をマジマジと見ていた。何だか、恥ずかしい。恥部を晒している気分だ……
 。
 
「口に合うか分からないが、結構料理は好きな方なんだ」
 
 
 顔が少し赤い気がする。
 
 
「男性でここまで作れるって……。驚きました」
 
 
 西浦さんは感心しているようで、俺は得意げに一個一個のおかずの説明をしてしまう。彼女はそんな俺の馬鹿な説明にも嫌な顔せず「凄い!」と声を上げてくれていた。なんて良い子なのだろう。俺が感動していると、西浦さんが鍵を閉めたドアからガチャガチャと音がする。
 
 
「あれ? 何で開かないんだ? 浮田課長居るんですか? 鍵掛かってますよ!」
 
 
 あれは田中の声だ。西浦さんが起ち上がってドアを開けに向かおうとしているではないか。田中、お前邪魔なのだよ! 俺は思わず舌打ちしてしまう。どうか、西浦さんには聞こえていませんように。
 
 
「田中君、ゴメン! 鍵が掛かってるの知らなかったの」
 
「あれ? 西浦さんも居たんだ? ん? もしかして二人でいやらしい事でもしてたんじゃない?」
 
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