推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
そう、私はモブよ。何かをしてしまっては、折角勝ち取ったこの美味しいポジションがチャラになるじゃないか。私はグッと握りこぶしを作ってバンっと太股を叩く。目を覚ませ、私!
 

「西浦さん……? どうかした? ん……?」
 

 いつの間にか真横に立っていた浮田課長が私の顔を覗き込む。そして「顔が赤いよ」と告げてきた。ええ、赤いですとも。貴方が珍しくジッと見てくるから! モブはそういう展開に弱いのです。
 

「だ、大丈夫……です。あぁぁぁ!」
 

 浮田課長の少しひんやりとした手が私の額に触れる。私の顔は更に赤くなっていった。
 

「に、西浦さん! 熱があるんじゃないかな? 残業なんていいから、今日はもう帰りなさい……」
 
「そ、そんなに……ち、ちかく……」

「え? 家は近くないの? 分かった。俺がタクシーで送っていくから」
 

 違うのですー! しかし、恥ずかしすぎて声が出せない私は下を向くしかなかった。浮田課長はあっという間に帰り支度をして、私を連れてタクシーに乗り込んだのだった。
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