婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。
「セシリアは……私といた時のセシリアは、本当の姿を見せてくれていたのだろうか……」


そうね。あなたがそうであるように、今の私はあの頃の私と違いすぎるもの。そう思うのも仕方がない。
けれど、私はライラだから、そのまま答えるわけにはいかない。


「あなたは、その女性の愛を疑っているのですか?」

ハッとした彼は、私の言葉を慌てて否定する。


「それはない。あの頃彼女は、確かに私に想いを寄せてくれていた。だが……」

「想像でしかありませんが……」


一国の王太子ともあろう人が、かつての婚約者を求めて、緩衝地帯のこんな森の奥まで来たのだ。まあ、少しぐらい労ってあげてもバチは当たらなあだろう。


「庶民の女性でなかったとしたら……生活に制約があり、知らず知らずのうちに、我慢や無理を積み重ねていたのかもしれませんね」

「我慢や無理か……それは、私にも通じるな」

王太子なんだなら、それ以上でしょうよ。



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