教えて、春日井くん
ショッピングモールを一階から順にふたりで手を繋ぎながら、好きな雑貨の話やアーティストの話などをしていく。
まだまだ知らないことばかりだったので、こうしてひとつずつ知っていけるのは嬉しい。私たち、今ものすっごくカップルっぽい!
歩き疲れたので、ふたりで飲み物を購入してショッピングモール内のベンチに座って、一休みする。
春日井くんは案外甘いのが好きらしく、チョコレートのフラッペを飲んでいる。
私は抹茶味のフラッペで、甘さの中にほんのりと苦味があって美味しい。
「綺梨ちゃん、ひとくち飲む?」
「えっ!」
突然の提案に動揺してしまった私を春日井くんが目をまん丸くする。予想外の反応だったらしい。
「こういうの小説とか漫画の中でありそうだし、綺梨ちゃんなら喜ぶかと思ったんだけど」
「まさか春日井くんから間接キスの提案をしてくれると思わなくて、びっくりしちゃって。喜んでお受けします!」
「その言い方やめて……」
興奮を抑えきれず、熱くなった頬を空いた掌で扇ぐ。
嬉し過ぎて表情筋が緩んでだらしない顔になっちゃう。
「飲んでもいい?」
「うん、どうぞ」
既に春日井くんが口をつけた黒いストローをまじまじと見つめながら、息を飲む。私は、これから……間接キスをします!と心の中で叫び回っている。だめだ、心の中の私、静かに!
「……飲まないの?」
「飲みますっ!」
間接キスに心臓が暴れそうになりながらも、理性を総動員させて自分を律してストローをくわえた。
春日井くんのは私の抹茶よりも甘くって、チョコレートの味が濃厚だ。
「これもおいしいね」
「ね。買ってみてよかった」
春日井くんも気に入っているらしく嬉しそうなので、私の表情筋がふやけそうになる。甘ったるい笑顔が最近子犬のように可愛くて仕方ない。
「私のも飲む?」
「え、あ、うん」
私には指摘したのに、自分だって動揺している。春日井くんってばかわいさで私を爆発させる気だろうか。
「じゃあ、くわえて?」
「ちょ、言い方! もー!」
叱られてしまった。でも卑猥だと連想する人の頭の中の方が卑猥なんだと思う。
ちょっと頬を赤くしながらも、春日井くんは私のストローに口をつける。間接キスの一挙一動を瞬きをせずに見つめていた。