教えて、春日井くん
「あの……綺梨ちゃん近い。腕離して?」
「嫌です。腕だけは渡さない」
「俺の腕だよ」
「今は私の腕」
「……俺のこと試してる?」
私としては画面上で起こっている残虐シーンを観ることに必死で、春日井くんの言っていることがよくわからない。
「そんなに近づかれると、その……困る」
「……私がくっつくの嫌なの?」
テレビから春日井くんに視線を向けると、春日井くんがごくりと息を飲んだ。そして気まずそうに視線をそらしてしまう。
「映画に集中できない」
「……なんで?」
「綺梨ちゃんがくっつくと、その、えーっと……ってか綺梨ちゃんなんで泣きそうなの?」
とうとう春日井くんにも私が怯えていることに気づかれてしまった。
なんでもないと返しても通用しなさそうなので、素直に謝罪して「これはホラーというよりも猟奇殺人だから苦手」ということを話した。
すると春日井くんは口をぽかんと開けて、小首を傾げる。
「怖いの?」
頷く私に、呆気にとられていた春日井くんの表情が楽しげなものに変化してく。
「じゃあ、怖くなくしてあげよっか」
テレビからは女性の叫び声が聞こえて、肉が裂かれたような音がする。たまらず目をぎゅっと閉じると、春日井くんに抱きしめられた。
「大丈夫。俺に集中して」
唇が重ねられて、啄むようなキスをされる。けれどそれ以上には進まず、ずっと触れるだけだった。
もどかしくて薄目を開けると、春日井くんと視線が交わる。
そして軽く頭を撫でられて、唇が離れていった。