伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 しかし、正面の扉が開かれ、中へ招き入れられた瞬間、違和感が確信に変わった。

 パーティー会場にいる人々の服装が自分とまるで違うのだ。

 貴公子達と談笑している貴族の娘達はみな、異国から伝来したのか、見たこともないような軽やかな布地でできたドレスを身にまとっている。

 言われなくても、これが流行のファッションであることはエレナにも分かった。

 とっさに胸元で手を合わせてみても、そんなことをしたところで、自分の古くさいドレスを隠すことなどできはしなかった。

 もはや楽団の奏でる舞踏の音楽すら耳に入らない。

 すると、そばでシャンパンのグラスに口をつけていた女性が胸を揺らしながら歩み寄ってきた。

「初めまして、わたくし、ファレル公爵家のカミラと申します。あなたは?」

「わ、わたくしはエレナ、シュクルテル伯爵家のエレナです」

 カミラと名乗った女はエレナのことを上から下までなめ回すように観察している。

「あなたは王宮は初めてですの?」

「ええ、とても華麗なところですね」

「それはもう、緑豊かな田舎のお城とはまるで違いますでしょうね」

 トゲのある言葉に言い返すこともできない。

 高慢なプライドなど、物陰に逃げ込んだ子犬のようにどこかへ行ってしまっていた。

 気がつくと、周りに人が集まってきていた。

 やはりみな明るい色柄のドレスをまとっている。

 その中にいる自分はまるで暗い井戸に沈んで溺れているように思えてしまう。

「お召し物、ものすごく、独特ですわね」

 カミラが言葉を選ぶようにつぶやくと、まわりの女性たちが次々に感想を重ねていく。

「そうですわね。とても、その……古典的というか」

「ええ、歴史とか、時代の重みを感じますわね」

「布地も重いようですけど」

 誰かの一言に失笑がこぼれる。

 カミラが軽く咳払いをしながら唇に人差し指を立てると、目配せをしあいながら、わざとらしくみなが黙り込む。

 あからさまな嘲笑に耐えながらエレナは侍女を探した。

 ちょっとどういうことなのよ。

 ミリアが良いと言うから着たんじゃないのよ。

 だから、嫌だと言ったのに。

 しかし、彼女はどこにもいなかった。

 肝心なときに主人のそばについていないなんて!

 まったくもう、役立たずの侍女なんだから。

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