伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 脚がもつれそうになって思わず立ち止まってしまった。

 とたんに他のカップルとぶつかってしまう。

「おっと失礼」と、王子が舞踏の輪から外れてエレナを窓際へといざなう。「大丈夫かい?」

「え、ええ、すみません。なんだか疲れてしまったようで」

「少し休めるところへ行こうか」

 王子の優しい言葉にもかろうじてうなずき返すのが精一杯だった。

 ここから連れ出してくれるなら、どこでもいい。

 この現実から目を背けることのできる場所へ連れていってほしい。

 だが、相手はエレナの意図を勘違いをしているようだった。

 次に聞こえてきたのは耳を疑うような言葉だった。

「僕がたっぷりかわいがってあげるからさ」

 かわいがる?

 王子は当然といった表情で続ける。

「二人っきりで、楽しみたいんだろう?」

 王子の顔が急に下品な色をおびる。

「王宮で暮らして僕の愛人になればいいんだ。領地の経営はクラクスの家来に任せて、君はここにいればいい。どうせあんなガキじゃ、君を満足させられないんだし。僕が手取り足取りじっくりと君に快楽を教えてあげるよ。僕色に染めてあげるさ」

 はあ?

 何言ってんの、この人。

 最初から不倫前提の結婚なんて。

 何が『僕色』よ。

 腹黒王子のくせに。

 イカスミの食べ過ぎじゃないの!?

「べつに悪いことじゃないさ。自由な恋愛は上流階級の特権だろ。今宵ここに集まった者達もそういった大人の出会いを求めているわけなんだし」

 会場内のあちこちで親密に語り合う人々が急に淫靡な不倫カップルに見えてくる。

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