伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 二人きりになった小広間で、ミリアが口の端に笑みを浮かべて壇上からエレナを見下ろしていた。

「ザマアですわね、エレナ」

「ざ、ザマア……ですって?」

「長年の恨み。その仕返しです」

「あなたが言っていた卑劣な陰謀とは何なのですか。いったい、わが伯爵家が何をしたというのですか」

「ちょうどあなたが生まれた頃のことです」と、ミリアが椅子から立ち上がって語り始めた。「わが公爵家は正義のために立ち上がったのです」

 かつてラベッラ公爵家とシュクルテル伯爵家はルミネオン王国の隣国サンペール王国の臣下だった。

 そして、公爵家と伯爵家は長い間盟友として良好な関係を築いていた。

 そんなとき、当時のサンペール国王が王宮の建築費を捻出するために、民衆に新たな税を課そうとした。

 ラベッラ公爵は王室の放漫財政により民衆を苦しめることは認められないと抗議し、諸侯にも賛同を求めた。

 伯爵家も賛成の立場を表明し、一時は王家も増税を撤回する流れになりかけていた。

 しかし、諸侯会議を招集するという名目で貴族達を王都に呼び寄せた王家は、彼らを幽閉し、増税への賛同を迫ったのだった。

 陰謀を察知していたラベッラ公爵は招集に応じず、同様に所領に籠城した伯爵に呼びかけて反旗を翻し王都へ進軍しようとしたが、伯爵は援軍を送ることはなく、サンペール王家の軍勢に破られて所領を剥奪され、公爵家は断絶となったという。

 そして、孤立したシュクルテル伯爵はルミネオン王国に助けを求め、新たに家臣となることを誓ったのだった。

「民衆のために立ち上がったわが父をおまえの父は裏切ったのよ」

 ミリアは拳を振るわせながらエレナをにらみつけていた。

「父は討ち死に。母やまだ子供だった私たちは城を追い出され、流浪の生活を送るうちに散り散りになったのです。私は家族の仇を討つため、伯爵家の召使いとなって、いつかこの日が来ることを待っていたのよ」

 それはエレナのまったく知らない話だった。

「サンペールを追われたおまえの父は自分だけ庇護を受けるために、忠誠のあかしとして、生まれてくる子供をルミネオン王家に人質に差し出すという契約を結んだそうよ。それがこのたびの婚約の真相だったというわけね」

 そんないきさつがあったことをエレナは初めて知った。

 自分は家を守るための道具に過ぎなかったなんて。

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