伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 がっくりとうなだれたエレナに罵声が浴びせられる。

「盟友を裏切り、自分さえ助かればよいと逃亡した卑怯者。それがおまえの父シュクルテル伯爵よ。その娘であるおまえの運命は生まれたときから裏切りの汚い血にまみれていたってわけね」

 ミリアが口に手を当てて笑い出す。

「ホホホ、むしろ、カエルと婚約する方がましだったんじゃないかしら? そうやって這いつくばっているおまえにはとてもお似合いよ」

 エレナも顔を上げて言い返した。

「あなたもそれでいいのですか? これがあなたの望みなのですか? あなたにしても、結婚とは名ばかりで、あの子のお守りをするだけじゃないの。それであなたは幸せになれるというの? 結局は貴族の身分を得るための政略結婚でしょうに」

 うなずきながら聞いていたミリアが不敵な笑みを浮かべる。

「そうかもしれませんけど、ウェイン第一王子がいなくなればクラクス王子だって世継ぎになれるんじゃないかしらね。そうすれば貴族の身分どころか王国そのものが手に入るわ」

「第二王子もいるんでしょう? クラクス王子は世継ぎにはなれないでしょうに」

 だからこそ、エレナも婚約を受け入れられなかったのだ。

 しかし、ミリアは落ち着いた表情で笑みを浮かべたままだ。

「大丈夫ですよ。上の四人がいなくなれば順番が来るのですから」

「そんな都合の良い話があるわけないでしょう」

「そうなるように仕向ければいいのですよ」

 仕向けるって、いったい……。

 心の奥がざらつく。

 何かが引っかかって嫌な音を立てている。

 鼓動が早くなる。

 ミリアがおもむろに視線をそらして窓から差し込む光を見つめた。

 目を細めながらつぶやく。

「あなたに知らせておくことがあります。さきほど、伯爵家より早馬が来たそうです」

「お城から? なんですの?」

「伯爵が亡くなったそうですよ」

「なんですって!」

 エレナは床に崩れ落ちた。

 ああ、お許し下さい、お父様。

 せめて枕元でご挨拶をしたかったのに。

 お別れも言えずに……。

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