伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「では縄をほどいてくださいな」

 ところが男たちは松明の炎をすかしながら宝石の輝きを見つめているばかりで、いつまでもほどこうとしない。

「何をしているのですか」

「へへへ」と、片方が下卑た笑みを浮かべる。「どうせこのまま死ぬんだから、縛られてたって同じじゃねえですか」

「なっ、そんな」

 もう一人が鉄格子の間から手を入れてエレナのドレスをつかむ。

「それよりよ、相棒」

「おう、なんでえ」

「どうせ、このお嬢様、ここで死ぬんだからよ。ちょいと俺たちで味見させてもらったっていいんじゃねえかい?」

「おう、なるほどな」

「へへへ、高貴なお嬢様だぜ。こんな幸運めったにないからな」

「役得ってもんだな」

 エレナはとっさに鉄格子から離れて振り向いた。

「あ、味見とは、どういうことですの?」

「おやおや、お上品なことぬかしてやがるぜ」と、男たちはかえって興奮しているようだった。

「本当は全部知ってるくせによ」

「ま、いいさ、俺たちがかわいがってやるぜ」

 二人ともいきなりベルトを外し、ズボンを下ろした。

 扉に手をかけたところで、片方がつぶやく。

「おい、でもよ、鍵がないぜ」

 自由を阻むはずの鉄格子が今は自分を守ってくれていた。

「おう、そうか。上から取ってこようぜ」

 ズボンを下ろしたままあわてて歩こうとして足が絡まっている。

「おいおい、馬鹿だな。まずはその粗末なモノをしまってからにしろよ」

「へっ、おまえだってそうだろうがよ」

 二人はゲラゲラと笑いながら牢屋から離れていく。

 と、そのときだった。

 暗い洞窟の床で滑ったのか、男が転んで、壁に掛かっていた松明に突っ込んでしまったのだ。

 落ちてきた松明をかぶってしまい、たちまち服に火がついて燃え上がる。

「あ、あっちい!」

 床を転げ回りながらなんとか服を脱ぎ捨てたものの、松明を蹴飛ばしてしまい、バラバラになった薪が牢屋の中へ転がっていき、白骨死体の服に燃え移る。

 蝋の焦げるような嫌な臭いの煙が上がって、もうもうと立ちこめる。

「おえっ、くっせえ。やべえよ、逃げようぜ」

 男たちはエレナを置いて階段を駆け上がって行ってしまった。

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