伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 暗闇の中に、松明に照らされた鉄格子が浮かび上がる。

 その奥には白骨化した死体が転がっていた。

 それを見ても不思議と恐怖心はわいてこなかった。

 もはや抵抗する気力も、生き抜こうとする希望も無くなっていた。

 鉄格子の鍵は錆びついているようで、衛兵が岩でたたきつけて壊した。

「別の鍵を持ってきなさい」

 ミリアの命令で衛兵が一人地上へ駆け戻っていく。

 扉を開けるとキイッと嫌な音が地下の暗闇に広がる。

 エレナは衛兵に押し込まれる前に自分から中に入った。

 新しい錠前を持って戻ってきた衛兵が派手に金属の音を鳴らしながら扉を閉める。

 鉄格子の向こうでみながエレナを哀れみの目で見ている。

「おまえたち」と、ミリアは棺を運んだ男二人を呼んだ。

「へい、なんでしょうか」

「おまえたちは松明を絶やさないようにここで見張りをしなさい」

「え、こんなところでですかい?」

「最期まで見届けるのですよ。いいですね」

 不満そうな顔をしつつ、衛兵たちににらみつけられて男たちは肩をすくめるだけだった。

「では、これで本当に終わりね。さようなら、お馬鹿さん」

 ミリアは衛兵たちを引き連れて高笑いを残しながら去っていった。

 地下に取り残された男二人も、ミリアたちの気配が消えるとそわそわしはじめた。

「なあ、よお、こんなところにいるのは俺はいやだぜ」

「そりゃあそうよ。松明さえつけておけば、ここにいることもあるめえよ」

「だよな。どうせ一週間も持たねえだろうから、その頃に見に来ればいいよな」

 エレナは二人に声をかけた。

「あなたたちにお願いがあります」と、背中を向けて鉄格子に押しつけた。「せめて縄をほどいてくれませんか」

 男たちは顔を見合わせてから首を振った。

「それはいけませんぜ。逃げ出されたらあっしらが死刑ですよ」

「いくら両手が使えてもこんな頑丈な鍵を壊すことはできません」

 背中を押しつけたまま顔だけ向けて説得してみても、それでも疑いの目を向けている二人に、エレナは手の指を伸ばして見せた。

「この指輪をあなたたちに差し上げましょう」

 それは亡き母の形見だった。

 松明の炎で照らされて輝くサファイアを見て男たちの表情が変わった。

「いいんですかい?」

「かまいません。もうわたくしには必要のないものです。おまえたちの生活の足しにするといいでしょう」

「それじゃあ、遠慮なく」

 二人はエレナの手を押さえて指輪を抜き取った。

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