伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 それならば、とエレナは名前を考えた。

「では、『ルクス』ではいかがでしょうか。『光』という意味です」

「よかろう」

 光という言葉に反応するかのように彼のマントが黒光りする。

「ルクス」

「なんだ」

「これからどうぞよろしく」

 手を差し出すと、ルクスもマントの下から手を差し出した。

 しかし、エレナはそれを握ることはできなかった。

 それは細長く、節で折れ曲がった昆虫の脚だったのだ。

 絶句しているエレナを見て、ルクスは「おっと、すまない」と、いったんマントの中へ引っ込めてからもう一度手を差し出した。

 今度は人間の手だった。

 だが、その直前の印象が強すぎて思わず手を引っ込めてしまった。

「あ、あなたは……」

 もしかして、あの地下牢から私を連れ出した……。

 エレナは後ずさろうとした。

 しかし、下がっているつもりなのに相手との距離はまったく変わらない。

 いや、むしろ、縮まっている。

 いつの間にかエレナはルクスに手をつかまれていた。

 と、その瞬間、ルクスのマントがガバッと開いて中から昆虫の手脚が飛び出してきた。

 ギシ、ギシシ。

 カサ、カササ。

「ゴ、ゴキ……」

 エレナはその脚にからめとられて抱きしめられた。

「キャアアアアアアアアアアアア!」

 自分自身の悲鳴を聞く間もなく、エレナは失神していた。

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