伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 中は真っ暗で何も見えない。

 エレナは心の中で『光あれ!』と唱えた。

 壁際の燭台に灯がともり、中の様子がほんのりと浮かび上がる。

 がらんとした玄関ホールには埃が積もっていて、ルクスのものなのか、足跡がはっきりと残っている。

 掃除はしていないのだろうか。

「無駄だ」

 心の中を読み取るかのようにルクスがつぶやく。

「これは埃ではない。冥界に降り積もる人の罪だ。掃除をしたところできれいにはならない」

 ルクスは奥へ進んでいく。

 そこはキッチンだった。

 頑丈そうな足に支えられた分厚い板のテーブルが置かれ、その上には肉の塊が何種類か並んでいる。

 気のせいか腐敗臭が漂っているようだ。

 しかも、それ以外に食材らしい物は何もなく、調理道具も埃をかぶった鍋が一つあるだけだった。

 かまどには炭の燃えかすすら残っておらず、調理した様子はなさそうだ。

「普段は誰が調理しているのですか」

「しない」

「では、お食事はどうなさっているのですか?」

「俺は食わなくてもよい。冥界の帝王だからな」

 冥界とはそういう場所なのだと言われればそうなのかもしれない。

 でも、ならばなぜ肉や鍋があるのだろうか。

 口に出さずとも、すぐにルクスが説明してくれる。

「これは冥界をさまよう獣の肉だ。冥界にやってくる罪深き罪人は、人ではなく獣としてこの闇の世界をさまよい続ける。それを捕らえて肉として調理してやれば、永遠の苦しみから救済されるというわけだ」

「つまりこれは、元々人だったものの肉ということですか」

「人ではない。獣だ。獣が人の皮を被っていただけだ。だからこそ、冥界へ堕ちてきた」

「それでも人は人ではないのですか」

「さあな。それは言い方の問題だ。食いたければ好きなようにするがいい」

 由来が分かってしまった以上、食べる気など起こらなかった。

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