伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「物語などで使われる言葉でございます。伏線と言いますか、この先に起こることを自分から予言してしまうようなことです。たいてい悪い結果を導くときに使われます」

 ミリアが仕事の合間に小説などというものを読んでいることをエレナは知っていた。

 そのせいか、この侍女はたまに意味不明なことを言い出すのだ。

 刺激的な快楽を求める小説は庶民の娯楽であり、上流階級の者はそのような下劣な物に触れてはならないとされている。

 貴族の令嬢が知らないのは当然だった。

 ただ、エレナにしても、ラテン語の勉強のふりをしながらこっそり小説を読んで、刺激的な恋物語に心ときめかせたことがあるのは内緒だ。

 悟られぬようにエレナはあえて違う例をあげてみた。

「それはつまり、真夜中の鐘の音を聞くとおねしょをしてしまうとか、そういう戒めのような物ですか」

「はい、さようでございます。さすがは十二の時までおねしょをなさっていたお嬢様。例えが的確でございます」

「あ、あのときは、夢の中でお母様がトイレにつれていってくださったのです」

「さようでしたか。お嬢様はたいへん素直でいらっしゃいますので、お疑いにならなかったのございましょう」

 すました顔で皮肉を言うミリアをにらみつけても、素知らぬ顔だ。

 隠そうとしてかえっていらぬ恥をかいてしまった。

 いや、知っていてあえて言っているのだ。

 まったく、この侍女ときたら。

 まあいいわ。

 今大事なのは今夜のパーティーよ。

 嫁いでしまえば、こんなさびしい田舎ともお別れだもの。

 それは家のためでもあるし、自分のためでもある。

 わたくしこそが、この世の主役なのですから。

 エレナは胸を張って前を向き、かたわらに控えた侍女に告げた。

「さ、ミリア、参りましょうか」

「はい、お嬢様」

 カツカツと靴音を響かせながら、エレナは玄関へ向かって歩き始めた。

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