伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「わあ、かわいいじゃん。君なんてえの?」

 そういえばまだ名前を聞いていなかった。

「わかんない」

「わかんないって、なんでよ」と、サキュバスがしゃがみ込んで男の子をギュッと抱きしめる。

「だって、ママは馬鹿とか間抜けとかのろまとかしか言わなかったから」

「へえ、じゃあ、あたしが名前つけてあげよっか」

 うん、とうなずきながら男の子がサキュバスの胸の谷間に顔を埋めた。

「気持ちいいでしょ」

「うん」

「男の子はみんなギューが大好きだもんね。帝王様もあたしにはデレデレなくらいだし。まあ、あたしのナイスバディなら無理もないけどぉ」

 はあ、とエレナはため息をついた。

 王宮のクラクス王子とカミラのことを思い出してしまう。

 どうせわたくしでは満足できないでしょうよ。

「わたくしはエレナですよ」と名乗ってみても、まるで興味を示さない。

「ママ、おなかすいたよ」

 この子には名前などどうでもいいようだ。

 サキュバスが男の子の濡れたズボンをするりと脱がす。

「あらまあ」とエレナは思わず声を上げてしまった。

 サキュバスが一瞬ぽかんとして笑い出す。

「たいしたもんじゃないじゃん。帝王様なんかもっとすごいよ」

 何を言い出すのでしょうか、この妖魔は。

「子供の前でそういうことは言わないでください」

「ふーん、あっそ」

「ねえ、僕、おなかすいたってば」

 口をとがらせる男の子にサキュバスが微笑みかけた。

「まずはお着替えしてからだよ。おちっこそのままにしておくとクチャイからね」

「クチャイのやだ」

「だよね」と、顔を見合わせて二人で笑い合っている。

 お行儀が悪いのは困るけど、思ったよりも仲良くなったみたいでエレナはほっとしていた。

「着替えはどこかにありますか?」とたずねるとサキュバスが首をかしげた。

「子供の服はないから、洗ってる間なんか巻いておくしかないんじゃない」

「そうですか」

 エレナはキッチンを出てタオルを探しに行った。

 クローゼットの中から大きめのタオルを取ってきて戻ると、サキュバスと男の子はもうテーブルに並んでシチューを食べていた。

「おいしいね」

「でしょ。あたしが作ったんだもん」

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