伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「もうママはぶたないから大丈夫ですよ」

「僕ね、お漏らししちゃうとママにぶたれちゃうから、夜ね、寝るとお漏らししちゃうでしょ。だから僕ね、夜は寝ないように頑張ってたんだけど、いつの間にか寝ちゃってて、おねしょしちゃって、お布団乾かさなくちゃって暖炉の前に持って行ったら、燃えちゃったんだ」

 まあ、そうだったのですか。

「一生懸命火を消そうとしたんだけど、おうちが燃えちゃってね。みんな死んじゃったの」

「そうだったのですか」

 それでこの子は冥界に堕ちてきたのだろう。

 でもだからといって、獣に食われてしまっていいわけではない。

「もう心配いりませんよ。ママがいつでもギュッてしてあげますからね」

 安心させてやりたくて屋敷へ戻ってきたのはいいが、この子を中に入れてもいいものだろうか。

 ルクスはなんと言うだろうか。

 玄関の扉を少しだけ開けて中を見ると、人の気配はないようだった。

 エレナはしゃがんで男の子を下ろすと、向かい合って口に指を立てた。

 男の子がうなずく。

 ニッコリと笑って頭をなでてやると、男の子も笑顔になった。

 口に指を立てたまま左手で男の子の手を引いてキッチンへ向かう。

 ドアの隙間からぼんやりとした光が漏れて、変な鼻歌が聞こえてくる。

 中をのぞくと、キッチンにはサキュバスしかいないようだった。

 片付けものをしているらしい。

「ねえ、あなた」と声をかけて、エレナはチョイチョイと手招きした。

「ん? なあに?」と、手を止めてこちらへ来る。

「ルクスは?」

「帝王様なら、今出かけてるよ。悪い奴でも探しに行ったんじゃない?」

 それはちょうど良かった。

「まだシチューはありますか?」

「あるよ。食べる?」

「わたくしではなく、この子に食べさせてあげてくださいな」

 エレナは男の子の背中を押してキッチンへ入れてやった。

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