伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 エレナはようやく理解できた。

「あの子がこの子犬になったというのですか」

「そうだよ」

 まあ、ここは冥界だ。

 何があってもおかしくはない。

 もう一度子犬を受け取ってからエレナはたずねた。

「でも、どうして」

「さあね。あんたの部屋から出てきたときにはこの姿だったよ。元々冥界に墜ちてきた悪者は獣になる運命なんだから、こっちが本当の姿だったんじゃないの?」

 サキュバスはまったく気にもしていないようだった。

「この方が帝王様にも話しやすくていいんじゃない?」

 それはそうだが、なんだか寂しさも感じてしまう。

 もう少しこの子のママでいたかったような気がする。

 と、廊下から足音が聞こえてきた。

 噂をすれば、ルクスが帰ってきたようだ。

 今さら隠すわけにもいかなくなってしまった。

「あたしに任せてよ」

 エレナは言われたとおり子犬を抱きしめたままキッチンの隅に立っているしかなかった。

 中に入ってきた彼をサキュバスが両手を広げて迎える。

「あらあ、お帰りなさーい。くりいむシチューとあたし、どっちにしますかぁ」

「おまえに決まっているだろう」と、ルクスがサキュバスを抱き寄せる。

 はあ?

 蕁麻疹が出そうなセリフだ。

 ルクスがマントからバラの花束を取り出す。

「地上の土産だ」

「やだあ、これ、あたしにですかぁ?」と、わざとらしく声を上げてサキュバスが受け取る。

「美しいものはおまえにこそふさわしいからな」

 なによこれ、夢で見たとおりじゃない。

 でも、なんでわたくしにではなくて、こんな妖魔が相手なのですか。

 夢ではときめいていたのに、他人がやっているのを見ているとイライラしてしまう。

「その子犬はどうしたのだ?」と、ルクスがこちらを見る。

「あのぉ、えっとぉ……」とサキュバスが体をくねくねさせながらルクスの首に腕を回して耳元に息を吹きかけた。

「なんだ、どうした」

 ルクスはニヤけながら妖魔の言葉に耳を傾けている。

「あのぉ、あたしぃ、子犬ちゃんが飼いたいなぁーとかってぇーいうかぁ。あん、もう、帝王様ってばぁ、わかるでしょぉ」

「そこの白いのがいいのか」

「そうなのぉ。ミルヒっていうのよ。いいでしょう?」

 まあ、何ですか!

 勝手に名前までつけて!

 でも、真っ白で乳のようだから、ミルヒというかわいらしい名前も悪くはないような気がした。

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