伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
◇
夢を見ていた。
真っ赤なバラの花束を持ったルクスがエレナを迎えに来る夢だ。
『まあ、これをわたくしに』
『美しいものはあなたにこそふさわしい』
『まあ、おじょうずですこと』
彼の胸に飛び込んで抱きついた瞬間、姿が変わる。
……ああ、まただ。
もう何度同じ夢を見ただろうか。
目を開けると、暖炉の火はまだついたままで、洗濯物はだいぶ乾いたようだった。
子供を寝かしつけているうちに、自分もいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
と、肝心の男の子がいない。
あら、どこにいったのかしら。
立ち上がって部屋を出る。
『光あれ!』
埃の積もった廊下には小さな足跡がついている。
だが、なんだか変だ。
子供の足にしても、小さすぎる。
エレナはその足跡を追ってみた。
階段を下りてキッチンへ続いている。
ドアの隙間から明かりが漏れている。
そっと顔を差し入れて中の様子をうかがうと、そこには見慣れない生き物がいた。
真っ白な子犬がテーブルの下でミルクをなめているのだ。
「あら、まあ、これは……」
「やっほー、子犬ちゃんだよ」
椅子に座ってその様子を眺めていたサキュバスが、子犬を抱きかかえてそばにくる。
「かわいいでしょ」
「ええ」
「抱っこしてやんなよ」
サキュバスに渡された子犬はおとなしく、つやの良いふわふわな毛に覆われて抱き心地がいい。
「あの子はどうしましたか?」
「この子だよ」
「あの男の子のことです」
「だからこの子だよ」
何を言っているのだろうか。
子犬がぺろぺろとエレナの顔をなめる。
かわいいのはいいが、今はそれどころではない。
子供はどうしたのだろうか。
サキュバスがエレナの腕から子犬を取り上げると、高く持ち上げて、ぶらんとぶらさがった下半身を目の前に掲げた。
「ほら、オスだよ」
まあ、かわいらしいこと。
でも、知りたいのはそういうことではない。
「あの、そうではなくて……」
「だから、この子だってば」
はあ?
この子って……。
まさか!