イミテーション・ハネムーン




「ごめんね、奥さん…」

「いえ…そんな…」

ひとしきり泣いて、女性はやっと落ち着いた。



「実はね…」

女性は、涙を拭いながら、身の上話を始めた。
それは、私にとてもよく似た話だった。
結婚を約束した男性に、逃げられたというのだ。
酷いことに、お金も根こそぎ持っていかれたという…



「なのに、私はまだあいつのことが忘れられない…
何か、深い事情があるんじゃないか、何かの間違いじゃないかって、今でも思うんだ…」

女性の話に私の胸はひりひりと痛んだ。
私も似たようなものだ。
死んでしまおうと思うくらい傷ついたというのに、達也のことが憎めない…
幸せだった時の記憶が頭から離れない。
思わずこぼれそうになった涙を、私は懸命に堪えた。



「辛い想いをされたんですね。
でも、絶望はしないで下さい。
あなたのように優しい人なら、きっと幸せになれますよ。
今の悲しみを笑って話せる日が必ずやってきます。
どうかそれを信じて下さい。」

圭吾さんの言葉はまるで私に向けられたもののように心に響いた。
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