セフレのテラダ
近くのパーキングで車を借りる。

脱いだコートを後ろの座席に投げるテラダ。

「乗って。」

車の外で固まったままの私に声を掛ける。

「考えるのなしね。」

テラダはそう言って笑うと、Bluetoothで音楽を流し始める。

イントロと一緒に車が動き出す。

「しゅっぱーつ」

車はテラダと私を乗せて夜の東京の街に乗り出す。

「どこ行くの?」
「しゅとこー!」
「首都高?」
「イエーーー!!」

まじでテラダってなんでこんなにすぐ頭の力を抜くことができるんだろう。

街の光が線を描く。

普段歩くスピードではこんな世界は見ることはできない。

こんなにワクワクするドライブがあったかな。
そんなことを思う。

テラダはハンドルに手を打ちながらリズムをとる。

そしてたまに私に視線を投げかけては笑う。

高速の入り口を見つける。
車はそのまま吸い込まれていくようにゲートを潜り抜ける。

あっという間に宝石箱をひっくり返してできたような、東京の夜景の海に放り出された。

「すごい」

つい口から溢れる。

こぼれそうな光の粒。
キラキラってこういうことを言うんだ。

凛と黄金に輝く東京タワーが見えてきた。

「すごい、東京タワーじゃない?あれ!」
「すげー」
「見て見て見て」
「見てるよ」
「きれい!」

つい無邪気になる。

いつのまにか頭が空っぽになる。
今日あったことなんて、すっかり夜の街に飛ばされてしまったようだった。

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