セフレのテラダ
前野さん
前野さんは串焼き屋さんを予約してくれていた。

「ここ美味しいの。お酒も。ワインの種類がすごく多くて」

店に入りながらそう言う。

紺のコートにセーター、チノパン。

嫌じゃない。

私は無意識に前野さんを上から下まで見ていた。

もし今晩、今晩、誘われたら私は受け入れるだろうか?

この人とキスできるだろうか?

席に通される。

4人掛けテーブルに2人。

天井が高く、明るい店内。

赤と白のコンストラストが賑やか。

幅広い年代の男女が楽しそうに集ってる。
いろんな声が飛び込んでくる。
みんな楽しそう。

「何飲む?」

前野さんがメニューを見せてくれる。

テラダだったら「生でいい?」ってそれだけ聞いてくるのに。

「生で。」
「はーい、俺も生かな。」

前野さんも穏やかに笑って店員さんを呼ぶ。

串焼きがプレートに上品に並ばれている。
アスパラ巻きだったりトマトとチーズだったり、串焼きなのに彩りがいい。

「すごい美味しそう。どれから食べよう?」

私が言うと、前野さんが笑った。

「玉山さんはいつも美味しそうに食べるよね」

「そうですか?」とだけ答える。

「いいよね、そういうところ。」

前野さんは私を見て微笑む。

この人に飛び込めたらいいのに。
何も悩まないで。

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