愛がなくても、生きていける



「な、なんで笑うんですか」

「あはは!だってさっきまであんなに強気だったのに、一瞬でしおらしくなっちゃうんだもん!かわいー!」

「か……!?私だって自分に非があるときくらいは謝ります!」



まさか笑われるとは思わなかったのだろう。お腹を抱えて笑う俺に、里見さんは恥ずかしそうに頬を染めて怒る。



「自分に非がある、って里見さんでも思うんだ?」

「私をなんだと思ってるんですか……。さっきのことは、私も言いすぎたかもしれないって、わかってます」



俺は彼女からハンカチを受け取ると、それで遠慮なくビールが滴る前髪を軽く拭う。



「里見さんは要領よく生きられないタイプなんだね。ああいう時は、適当に笑って流すのが一番なんだよ」



ふっと笑った俺に、里見さんはきゅっと唇を小さく結んだ。



「そういうあなたが、悲しそうな目をしてたから」

「え……?」



『あなたが』って、俺が……?



「聞きたくない、傷つきたくないって、その目が言ってる気がしたんです」



こちらをまっすぐ見るその目は、夜の街の明かりの中でも変わらず綺麗で、強さを放っている。



さっきの言葉は、俺のために?

俺の心を、弱さを察して言ってくれた。

そう思うと、寄り添ってくれるような感覚は間違いではなかったと気づく。



「たしかに私は、多くの人に好かれるタイプではないですし、要領よく生きられるタイプではないです」



落ち着いた声で言い切ると、里見さんは「だけど」と言葉を続けた。



「黙ったまま悲しい目をする人を放っておくくらいなら、要領よく生きられなくたっていい」



迷いのない、透き通るような高い声。



そんな生き方、不器用すぎる。

いらない苦労をしてしまうだろう、無駄に敵も増やしてしまうだろう。

俺なら絶対、ごめんな生き方だ。



……そう思うのに。



「……ありがとう」



その瞬間、心に彼女が棲みつくのを感じた。




  
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