愛がなくても、生きていける



「え?マリーゴールドの花言葉って、『悲しみ』なんじゃ……」

「花全般の花言葉はそうなんですけどね。色によってまた花言葉や呼び名は変わるんです」



女性はそう言いながら、オレンジや黄色、クリーム色などを指差す。



「オレンジ色のマリーゴールドは『太陽の花嫁』って呼び名があるんですよ。だからもしかしたらその方はあなたを『太陽』として見ていて、自分はその『花嫁』になれたらって想いを込めたんじゃないかしら」



太陽の、花嫁……。



『太陽みたい』



あの日、里見さんはそう言ってくれていた。

もし、この女性の想像が合っているとしたら。

俺の気持ちは届いていて、彼女の気持ちも俺と同じものであると思ってもいい……?



悲しみで溢れていた胸に、一筋の希望がさした。

その時だった。



「もうお母さん、家にスマホ忘れるなんてー……」



そう言いながら俺の後ろからやってきたのは、スマートフォンを手にした黒く長い髪をした女性。

ニットのワンピースとコートを着込んだその人は、これまで何度も会いたいと願い続けた相手……里見さん、だった。



「里見、さん……?」

「え……中村さん?なんで……」



お互い驚き、硬直する。

そしてすぐ我にかえると、里見さんは体の向きを変えてその場を駆け出した。

みるみるうちに遠ざかる後ろ姿に、俺も慌てて彼女を追いかける。



里見さんの足はあまり早くはなくすぐ追いつくと、俺は彼女の腕を掴み足を止めさせた。



「なんでうちまで来てるんですか……ストーカーですか……」

「失礼な!本当たまたま偶然で……ていうか花屋とは聞いてたけど、あそこが実家だったの!?」



たしかに、偶然にしては出来すぎてる。ストーカーと思われても仕方がないかも。

だけど俺は、これが運命に思えて仕方がない。



『なんで会社を辞めた?』

『なんで引っ越した?』

『なんでなにも言ってくれなかった?』

聞きたいことは沢山あるのに、口から一番に出た言葉は



「好きだ」



ずっと言いたかった、今でも変わらないこの気持ちだった。

はっきりと言った俺に、里見さんは顔を背けたまま。


  
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