愛がなくても、生きていける



会社を出た俺は、上司から指示された南青山の病院へ荷物を届けた。



こんな閑静な住宅街に大きめの病院があったのか。

思えば普段南青山なんてあまりこないし、と物珍しさから駅までの道を少し遠回りして歩く。



小さな通りには、おしゃれなカフェやアパレルショップ、ジュエリーショップがひっそりと軒を連ねている。



……そういえば、クリスマスにプレゼントしようと思って買ったネックレス、鞄に入れたままだな。

捨てようと思ったのに捨てられず、眠らせるように鞄の奥底にしまってある。

パステルグリーンの包みも、シルバーのリボンももうよれてしまっているだろう。



いつかこれも、思い出として処理できる日がくるのだろうか。

今はまだ、到底想像もつかないけれど。



ひとり歩き続けていると、一軒の花屋が目に入った。

『フラワーショップ Iris』と書かれたその店は、白い外壁に、陽だまりのようなオレンジ色のオーニングテントが目を引く。

店頭の棚には、オレンジ色や黄色など鮮やかな色のマリーゴールドが綺麗にアレンジメントされ並んでいる。



その美しさについ足を止めて見ていると



「いらっしゃいませ!」



黒いエプロンを身につけた、痩せた中年女性から声をかけられた。

店員であろうその女性は、ショートカットがよく似合うはつらつとした笑顔で俺を出迎える。



「贈り物ですか?」

「あ、いえ……すみません、そうじゃないんですけど綺麗だったのでつい」

「あら、一番の褒め言葉!このお花ね、うちの娘がアレンジメントしたものでうちのお店の自信作なんですよ」



明るい声で言う女性に「へぇ」と頷きながら改めて花を見ると、マリーゴールドの花はガラスのポットにバランスよく飾られており、その丁寧さがうかがえた。



「……この前俺、好きだった人にこの花をもらったんです」



ぼそ、とつぶやいた俺に女性はにこりと笑う。



「そうなんですか。ちなみになに色だったんですか?」

「色?オレンジですけど……」

「あら、じゃあその相手の方もお客様のことを大切に思ってるんでしょうね」



俺を、大切にって……どういう意味?

予想外のその返事に俺は首を傾げる。


  
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