愛がなくても、生きていける
翌日。仕事が休みである火曜日は、いつもなら中村さんとともにブーケを作る日だ。
けれど昨日のあの光景が頭から離れず、未だショックを受けている。
いつもならもう花屋に向かっている時間にもかかわらず、私は自宅のベッドの上で毛布にくるまっていた。
中村さんとの約束、すっぽかしちゃったな。
罪悪感が胸に込み上げる。けれどそれでも、足は動かない。
……中村さんが既婚者なことも最初からわかってたし、奥さんも子供も大好きなことはわかってた。
全部わかってたのに、忘れるようにしていたんだ。
なのに今更こんなふうに傷ついて……私、本当バカだ。
自分が情けない、恥ずかしい。
でもお母さんのところは行かないと。
お花どうしようかな、他の花屋に寄ろうか……。
そんなことを考えていると、突然スマートフォンが鳴った。
誰だろう、職場かな。
また急な出勤だろうか、と思いながらスマートフォンを手に取ると、着信画面には『南青山総合病院』の名前が表示される。
その文字に嫌な予感を感じながら、通話ボタンをタップした。
「はい、重森です」
『南青山総合病院です!今すぐ来ていただくことは可能ですか!?ゆうこさんの容態がっ……』
嫌な予感は、当たった。
病院からの電話は母の容態悪化を知らせるもので、私はコートを羽織り急ぎ足で病院へ駆けつけた。
息を切らし8階のフロアへ駆け込むといつもの静けさとは一転して、母の病室からは沢山の人の声が飛び交い慌ただしく人が行き来する。
騒然とした現場の空気に一瞬逃げ出しそうになりながら、私は病室へと踏み込んだ。
「重森さん!重森さん、聞こえますかー!?」
看護師さんが呼びかけるけれど、母は目を閉じたままなんの反応もない。
見ると、先生や看護師さんに囲まれた母は青白く生気のない顔をしていた。
つい先日よりもさらに痩せてしまった気がする。
その姿を見てようやく、私ははっとして声を上げた。