白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
外の木々が葉を擦る音。廊下で兵士さんが歩く音。そんな雑音以外に何も聞こえなくなって。「リイナ」と呼ぶ声も、ヒュゴヒュゴとした息遣いも聞こえなくなって。
「エド?」
呼吸が止まっていた。肩を揺さぶっても、胸が上下してくれない。
死んでしまう? エドが死んでしまう?
「エド……エド、エドワード様……!」
何度呼んでも。どれだけ揺さぶっても。彼は目を開けてくれない。彼が「リイナ」と呼んでくれない。彼が微笑みかけれくれない。
この熱い身体も、じきに冷たくなってしまうのだろうか。
その恐怖に、私は堪らず涙を零した。
私は彼に何が出来たのだろう?
たとえ『リイナ』に向けられたものだとしても、私は彼からたくさんの物をもらったのに。たくさんの愛情を。たくさんの思い出を。そして恋するという気持ちを教えてもらったのに。
「好きです……エド……」
溢れるのは、涙だけではなかった。
それは『私』に伝える資格がない言葉だとしても。
溢れるものを抑えることが出来なかった。
「好きです。大好きです」
彼の手を両手で握る。高熱で苦しかったのだろう。汗ばんだ手がまだ熱い。入院中に聞いた話だが、人の感覚で最後まで残るモノは聴覚らしい。
だから、どうか。あなたの『リイナ』の言葉だと信じていいから。
「死なないで。エドワード。私をあなたのいない世界に置いていかないで」
「ぼんどお……? りいなああ……」
…………え?
エドの手を握っていた私の手が、痛いくらいに握り返される。
改めて前を見れば、涙と鼻水でグチャグチャになった白豚王子の姿。
「エ、エドワード様……?」
いやぁ、もうほんっとひどい顔で。
ジュルジュル啜った鼻水で咳き込まないで下さい。唾が私に飛んでいます。
「嬉じいなぁ……リイナがそこまでぼぐのごと好いてぐれでいるなんて……」
「いや、あの……死んだんじゃないんですか?」
「あんな熱烈にリイナに告白されたんじゃ、死神だろうが冥王だろうが全員薙ぎ倒して生き返ざる得ないよねえ」
「でも呼吸止まってましたよ……?」
すると、エドは鼻をズズズッと啜る。
「真面目に答えると……ちょっと風邪を引いたくらいで死ぬような、やわな鍛え方はしてないよ? リイナの勘違いじゃない?」
「そんな――――」
そこでふと思い出す。昔売店のオバちゃんからもらった廃棄のシニア向け健康雑誌のとある記事。
『寝ている間に死んでる? 無呼吸症候群に気をつけろ!』
言葉の通り、無意識に呼吸が止まってしまう病気で、舌が落ちたり気管支が狭いことが原因で気道が塞がれ、呼吸が停止。それが原因で脳卒中などが起こる病気なのだとか。
「ねぇ、エド? 最近いびきがうるさいとか言われなかった? 日中ボーッとすることが増えたとか」
「寝る時は一人だからわからないけど……確かに集中力が欠けると感じる機会は多かったかな。でも仕方ないよね。リイナが僕じゃなくて他の男を選ぶんだもの。失恋して真っ当でいられるほど僕の愛が軽いと思われていたなんて心外――――」
プンプンと拗ねるエドの襟首を、私は思わず掴んだ。
「馬鹿っ! 太り過ぎなの!」
「リ、リイナ……?」
いきなり怒鳴った私に対して、エドが目を丸くする。だけど、私の怒りは……本当に焦った高ぶりはそんなんじゃ収まらない。
「エド?」
呼吸が止まっていた。肩を揺さぶっても、胸が上下してくれない。
死んでしまう? エドが死んでしまう?
「エド……エド、エドワード様……!」
何度呼んでも。どれだけ揺さぶっても。彼は目を開けてくれない。彼が「リイナ」と呼んでくれない。彼が微笑みかけれくれない。
この熱い身体も、じきに冷たくなってしまうのだろうか。
その恐怖に、私は堪らず涙を零した。
私は彼に何が出来たのだろう?
たとえ『リイナ』に向けられたものだとしても、私は彼からたくさんの物をもらったのに。たくさんの愛情を。たくさんの思い出を。そして恋するという気持ちを教えてもらったのに。
「好きです……エド……」
溢れるのは、涙だけではなかった。
それは『私』に伝える資格がない言葉だとしても。
溢れるものを抑えることが出来なかった。
「好きです。大好きです」
彼の手を両手で握る。高熱で苦しかったのだろう。汗ばんだ手がまだ熱い。入院中に聞いた話だが、人の感覚で最後まで残るモノは聴覚らしい。
だから、どうか。あなたの『リイナ』の言葉だと信じていいから。
「死なないで。エドワード。私をあなたのいない世界に置いていかないで」
「ぼんどお……? りいなああ……」
…………え?
エドの手を握っていた私の手が、痛いくらいに握り返される。
改めて前を見れば、涙と鼻水でグチャグチャになった白豚王子の姿。
「エ、エドワード様……?」
いやぁ、もうほんっとひどい顔で。
ジュルジュル啜った鼻水で咳き込まないで下さい。唾が私に飛んでいます。
「嬉じいなぁ……リイナがそこまでぼぐのごと好いてぐれでいるなんて……」
「いや、あの……死んだんじゃないんですか?」
「あんな熱烈にリイナに告白されたんじゃ、死神だろうが冥王だろうが全員薙ぎ倒して生き返ざる得ないよねえ」
「でも呼吸止まってましたよ……?」
すると、エドは鼻をズズズッと啜る。
「真面目に答えると……ちょっと風邪を引いたくらいで死ぬような、やわな鍛え方はしてないよ? リイナの勘違いじゃない?」
「そんな――――」
そこでふと思い出す。昔売店のオバちゃんからもらった廃棄のシニア向け健康雑誌のとある記事。
『寝ている間に死んでる? 無呼吸症候群に気をつけろ!』
言葉の通り、無意識に呼吸が止まってしまう病気で、舌が落ちたり気管支が狭いことが原因で気道が塞がれ、呼吸が停止。それが原因で脳卒中などが起こる病気なのだとか。
「ねぇ、エド? 最近いびきがうるさいとか言われなかった? 日中ボーッとすることが増えたとか」
「寝る時は一人だからわからないけど……確かに集中力が欠けると感じる機会は多かったかな。でも仕方ないよね。リイナが僕じゃなくて他の男を選ぶんだもの。失恋して真っ当でいられるほど僕の愛が軽いと思われていたなんて心外――――」
プンプンと拗ねるエドの襟首を、私は思わず掴んだ。
「馬鹿っ! 太り過ぎなの!」
「リ、リイナ……?」
いきなり怒鳴った私に対して、エドが目を丸くする。だけど、私の怒りは……本当に焦った高ぶりはそんなんじゃ収まらない。