白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「無呼吸症候群の一番の原因は肥満なの! 喉に脂肪がついて、気管が狭くなっちゃうの! それで息が出来なくなっちゃうの!」
「そ、それは怖い病気だね……異世界の知識?」
「そうですよこの馬鹿! エドの馬鹿! 何この二重顎! タプタプさせてないでよ! せっかく痩せたのに。馬鹿じゃないの? ほんっとーに馬鹿じゃないのっ!」
馬鹿。馬鹿。と何度も言いながら、エドの顎を何度も何度もタプタプさせる。すると、苦笑したエドが私の手を掴んだ。
「心配させてごめんね。リイナ。泣かないで。そんなに泣くと食べちゃうよ?」
「もう焼くなり煮るなり好きにすればいいじゃない!」
そっと頬に触れられた手を、私は払う。
「勇ましいね」
「女は度胸です!」
それでも、グズグズと私の涙は止まらなくて。
「なんで……またそんな太っちゃったんですか……」
エドが無事だった。ただの太り過ぎだった。そんな安堵を自棄に混ぜると、エドは払われた手を見つめて小さく笑ってから、私の髪を梳いた。
「ごめんね。せっかくリイナが減量に協力してくれたのに。ストレスで食べすぎちゃった」
「なんですか、ストレスって……」
おかしい。色々とおかしい。
公務とやらの内容はわからないけど、彼の視線はあからさまにストレスの原因が私と物語っているのだ。なんで私? なんで私が他の男の人と少し仲良くしただけであんなに嫉妬し、やけ食いするほど嫌がるの?
「私、あなたの婚約者の『リイナ=キャンベル』じゃないんですよ? リイナさんから身体だけ貰った赤の他人なんですよ?」
「そうだね。『リイナ』なら、僕のことが好きだなんて、絶対に言わないね」
そして、彼は遠くを見る。私を見て、私を見ない。私じゃない私を――『リイナ』を見る。
「リイナは博愛主義者だったから。世界を、自然を、この国の民を愛していたとしても、僕という個人を特別に想ってくれることはなかったよ。僕がどんなに尽くしたとしても。僕がどんなに醜くなったとしてもね」
その顔は少し悲しそうで。切なそうで。
当時も彼なりに必死にアピールしていたなら。あのインパクトのありすぎる白豚すらも、リイナの気を引きたい一心だったとしたら。
たとえ結ばれることが保証されていたとしても、苦しかったであろうことは容易に想像出来て。
「リイナは花を手折ることなんて絶対に許さなかった。武器を持つことも許さなかった。ハサミすら、彼女の概念では武器に入るみたいだよ」
彼の言葉の全てに心当たりがある。そうか……本当に最初から、エドは私が『リイナ』でないことがわかっていたんだ。その上で、それを日々実感させられた上で、毎日私と接していたんだ。
それは、どんなに苦しい毎日だったのだろう。
罪悪感に口を閉ざしていると、エドは語り続ける。
「とても崇高な人だった。精霊に愛されるのも納得せざる得ないほど、彼女は世界そのものを愛し――その姿は、とても綺麗だったよ。本当に、本当に……」
あぁ、本当に好きだったんだ。それは彼の言葉を聞かずしてわかる。たとえ想いが届かなくても、彼女のことが好きで。大好きで。そのことが、その切ない眼差しと口調だけで、嫌でもわかる。
私はただ、そのおこぼれを貰っていただけ。
そんな私を見て、彼は照れくさそうにはにかんだ。
「そ、それは怖い病気だね……異世界の知識?」
「そうですよこの馬鹿! エドの馬鹿! 何この二重顎! タプタプさせてないでよ! せっかく痩せたのに。馬鹿じゃないの? ほんっとーに馬鹿じゃないのっ!」
馬鹿。馬鹿。と何度も言いながら、エドの顎を何度も何度もタプタプさせる。すると、苦笑したエドが私の手を掴んだ。
「心配させてごめんね。リイナ。泣かないで。そんなに泣くと食べちゃうよ?」
「もう焼くなり煮るなり好きにすればいいじゃない!」
そっと頬に触れられた手を、私は払う。
「勇ましいね」
「女は度胸です!」
それでも、グズグズと私の涙は止まらなくて。
「なんで……またそんな太っちゃったんですか……」
エドが無事だった。ただの太り過ぎだった。そんな安堵を自棄に混ぜると、エドは払われた手を見つめて小さく笑ってから、私の髪を梳いた。
「ごめんね。せっかくリイナが減量に協力してくれたのに。ストレスで食べすぎちゃった」
「なんですか、ストレスって……」
おかしい。色々とおかしい。
公務とやらの内容はわからないけど、彼の視線はあからさまにストレスの原因が私と物語っているのだ。なんで私? なんで私が他の男の人と少し仲良くしただけであんなに嫉妬し、やけ食いするほど嫌がるの?
「私、あなたの婚約者の『リイナ=キャンベル』じゃないんですよ? リイナさんから身体だけ貰った赤の他人なんですよ?」
「そうだね。『リイナ』なら、僕のことが好きだなんて、絶対に言わないね」
そして、彼は遠くを見る。私を見て、私を見ない。私じゃない私を――『リイナ』を見る。
「リイナは博愛主義者だったから。世界を、自然を、この国の民を愛していたとしても、僕という個人を特別に想ってくれることはなかったよ。僕がどんなに尽くしたとしても。僕がどんなに醜くなったとしてもね」
その顔は少し悲しそうで。切なそうで。
当時も彼なりに必死にアピールしていたなら。あのインパクトのありすぎる白豚すらも、リイナの気を引きたい一心だったとしたら。
たとえ結ばれることが保証されていたとしても、苦しかったであろうことは容易に想像出来て。
「リイナは花を手折ることなんて絶対に許さなかった。武器を持つことも許さなかった。ハサミすら、彼女の概念では武器に入るみたいだよ」
彼の言葉の全てに心当たりがある。そうか……本当に最初から、エドは私が『リイナ』でないことがわかっていたんだ。その上で、それを日々実感させられた上で、毎日私と接していたんだ。
それは、どんなに苦しい毎日だったのだろう。
罪悪感に口を閉ざしていると、エドは語り続ける。
「とても崇高な人だった。精霊に愛されるのも納得せざる得ないほど、彼女は世界そのものを愛し――その姿は、とても綺麗だったよ。本当に、本当に……」
あぁ、本当に好きだったんだ。それは彼の言葉を聞かずしてわかる。たとえ想いが届かなくても、彼女のことが好きで。大好きで。そのことが、その切ない眼差しと口調だけで、嫌でもわかる。
私はただ、そのおこぼれを貰っていただけ。
そんな私を見て、彼は照れくさそうにはにかんだ。