エセ・ストラテジストは、奔走する
「どうしたの。」
「どうって?」
「…え。だって、珍しいから。」
茅人がなんの連絡も無く、家にやってくるのは珍しい。
玄関先で何かあったのかと尋ねると、無表情に近い整った顔のまま「うん」と短く返事だけを吐いて、靴を揃えて脱いだ。
今日は土曜日で、この間の“胃袋作戦“から丁度1週間。
そもそも月に2回会えたら良い方だから、今週末も会えるとは思ってなかった。
その理由は特に告げず、狭く短い廊下を渡ってリビングへ向かう彼の背中を追いかけて。
「……!!!」
無造作にテーブルに鎮座していたスマホに気づいて、光の速さで手に取った。
「何してんの。」
ネクタイをほどきつつ、訝しげな顔を向けられても
私は自分のファインプレーを褒めたい。
画面は、ふざけたLINEグループのトークのままだった。「プロポーズ大作戦(笑)」なんてフレーズ、見られるわけにはいかない。
あんなの茅人にバレたら、ここで一瞬で恥ずか死できる自信しかない。
「な、何も。」
焦りをできる限り抑えてそう言うと、特に反応は無く。
スーツの上着をハンガーにかけて、そのまま、私じゃ背伸びしても届かないカーテンのレールへ器用に引っ掛けた。
「…今日も、出勤してたの?」
「担当してる企業にヒアリング行って、会社戻って仕事してた。」
土曜なのに、こんな時間まで。
いつか倒れてしまうのでは無いかと、心配になる。
茅人は、電子機器の開発・生産を行う企業へエンジニアとして就職した。
コンサル業も請け負うので、クライアント先への外回りも勿論多いのに、それに加えて技術職としての仕事もあって。
当然、仕事が沢山たくさんあることくらい、なんの知識も無い私でも分かる。
だからこそ、このまま仕事に忙殺されるのではないかと、身を粉にして働く彼に不安を抱く瞬間もある。