エセ・ストラテジストは、奔走する



「どうしたの。」

「どうって?」

「…え。だって、珍しいから。」

茅人がなんの連絡も無く、家にやってくるのは珍しい。


玄関先で何かあったのかと尋ねると、無表情に近い整った顔のまま「うん」と短く返事だけを吐いて、靴を揃えて脱いだ。



今日は土曜日で、この間の“胃袋作戦“から丁度1週間。

そもそも月に2回会えたら良い方だから、今週末も会えるとは思ってなかった。

その理由は特に告げず、狭く短い廊下を渡ってリビングへ向かう彼の背中を追いかけて。



「……!!!」


無造作にテーブルに鎮座していたスマホに気づいて、光の速さで手に取った。

「何してんの。」

ネクタイをほどきつつ、訝しげな顔を向けられても
私は自分のファインプレーを褒めたい。


画面は、ふざけたLINEグループのトークのままだった。「プロポーズ大作戦(笑)」なんてフレーズ、見られるわけにはいかない。

あんなの茅人にバレたら、ここで一瞬で恥ずか死できる自信しかない。


「な、何も。」

焦りをできる限り抑えてそう言うと、特に反応は無く。

スーツの上着をハンガーにかけて、そのまま、私じゃ背伸びしても届かないカーテンのレールへ器用に引っ掛けた。

「…今日も、出勤してたの?」

「担当してる企業にヒアリング行って、会社戻って仕事してた。」

土曜なのに、こんな時間まで。
いつか倒れてしまうのでは無いかと、心配になる。

茅人は、電子機器の開発・生産を行う企業へエンジニアとして就職した。
コンサル業も請け負うので、クライアント先への外回りも勿論多いのに、それに加えて技術職としての仕事もあって。

当然、仕事が沢山たくさんあることくらい、なんの知識も無い私でも分かる。

だからこそ、このまま仕事に忙殺されるのではないかと、身を粉にして働く彼に不安を抱く瞬間もある。

< 18 / 119 >

この作品をシェア

pagetop