エセ・ストラテジストは、奔走する



「…もし私が上手にお味噌汁作れるようになったら、
茅人は「家庭的だ」って、少し思ってくれるかもしれない。
私はね、茅人のためなら、朝はパンじゃなくなっても、全然、大丈夫。


両親は、流石に東京に簡単に呼べないから。
こっちにいる従兄弟に茅人を鉢合わせて、プレッシャーかけてもらおうかなって思ったこともあった。
それは迷惑かけるだけだなって、結局、やめちゃったけど。

さっき荷物で届いたのは、
かの有名な、ゼクシィです。
こっそり部屋に忍ばせて結婚を意識させたら、って、
大学の時からの友達が、送ってくれたものだよ。

……さっきの電話も、その作戦の話で、浮気じゃない、よ。」



嗚呼、とうとう言ってしまった。

声の明るさを失わないように、それに気を取られて
言葉をしっかり紡げたかは自信が無い。


こんな風にネタばらしして、作戦を反故にするなんて
私は作戦設計者(ストラテジスト)、失格だ。

微動だにしない茅人に、ふ、と笑みが漏れた。
分かっていたけど、やっぱり困らせてしまっている。

「……茅人。

“あの時“、綺麗な思い出にできなくてごめんね。
ずっと長い間、縛ってごめんね。」



ずるずるとしがみついてきたのは、私だ。

「もう茅人を解放しなければ」

そう思いながらも、
私は長い間、手放すことができなかった。

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