エセ・ストラテジストは、奔走する
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「…あんた、なんなの本当。」

「何が。」

「昨日、急になんの連絡もなしに帰ってきたと思ったら、朝からゴロゴロして。布団干したいから起きて。」

「娘に冷たい。」

私の部屋にツカツカと入ってきた母が、勢いよく、くるまっていた布団を剥ぎ取ってきて、自然と眉が寄る。


「千歳。トイレットペーパー買ってきてくれない?」

「ええ!アマゾンで買ってよ、プライムなら今日届くよ。」

「そんなの東京の話でしょう。何を都会人ぶってんの、早く。」

のそのそと起き上がると、布団を干すためにベランダに続く窓が全開になっていた。

寒すぎる、寝起きの娘に全く容赦が無い。

そして視界をすぐに占領した外の世界は、太陽の光が一応ある中でも、溶けない白を帯びていた。


「…もっと、積もるかな。」

「そうね、今日の夜は激しく降るみたい。
あんた早く帰んないと、新幹線止まったら明日仕事行けないわよ。」

「…それならそれで、良いかもしれない。」

「え?」

「…お母さん、私、こっちに戻ってこようかな。」


ポツンと、視線を窓の方に向けたまま呟くと、


母の動きが止まったのが分かった。

「……千歳。」

ベッドの上に座る私のそばに、先ほどまでの粗雑さは全くなく、ゆっくりと腰を下ろした母が私を呼んで、それだけで泣けてくるのはなんでだろう。


「茅人君と、なんかあったの。」

「……、」


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