エセ・ストラテジストは、奔走する
母は一度だけ、茅人に会ったことがある。
上京する日だった。
2人とも同じ東京に行くのだからと、新幹線のチケットを一緒に取っていた。
頑固な父は駅まで見送りに来るような人では無いので、母だけが、ホームまで見送ってくれた。
成人しているにせよ、
日本海に面したこの豪雪地帯しか知らない娘が、上京をする時だ。
重苦しい話、例えば「娘をよろしく」とか茅人に言い出したら、どうしようかと冷や冷やしていたら出会った瞬間、「え、イケメン〜〜〜!」とはしゃいでいて
、最後までその調子で拍子抜けした。
"千歳、似てる。"
新幹線で茅人は母のことをそう言った。
私はそんな、年甲斐もなくはしゃいでイケメンとか叫ばないよと反論したら、ただ、珍しく破顔していた。
「何も、無いよ。
とっくに、何も無いのに、私が縋り付いてたから…、終わらせてきた、だけ。」
緩み切った涙腺の戻し方が、分からなくなっている。
昨日も気を抜いたら涙ばっかり出て、それを拭うことを続けていたから顔がヒリヒリしている。