エセ・ストラテジストは、奔走する


「…お母さんに貸してもらった“軍資金“は、
時間かかってもちゃんと返すから。」


漸く正社員になれた会社を辞めるのは勿体ないけど。
彼と離れた今、あの大都会で1人生きていく自信なんか、とっくに無い。


「……千歳。とりあえず顔洗いなさい。」

「……」

私にティッシュを押し付けた母が、今日1番厳しい声でそう促す。


「しっかりしなさい。」

「、」

「あんたはもう、学生じゃないのよ。
望んだ進路を前に、お金がなくて、お父さんを説得させる力もなくて立ち止まってたあの時と今は、もう違うでしょう。
此処に帰って来たいなら別に,それはそれで構わない。
だけど、そんな風に泣いたまま、自分の中でも整理がついてないまま、私からの承諾を“答え“にするのはやめなさい。」

「………,」

「分かったらトイレットペーパー買ってきて。」

「……」

話の最後にまたその要求を告げられて、ティッシュをずっと両眼に押し当てた状態のまま
こくり、頷いた。


母は、怒ってるから言ってるんじゃない。

大学生だったあの頃からずっと。

未熟な私なりに、彼をどれだけ好きだったか、

それが分かっているからこそ
雑に気持ちを片付けたりしちゃ駄目だと、
そう思ってくれているのだと、さすがの私も気づく。

だけど。

年月を重ね過ぎたどうしようもない彼への想いを
これ以上、どう上手く断ち切れば良いのか、私には分からない。


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