エセ・ストラテジストは、奔走する
◽︎
「千歳ちゃん。」
「え。」
実家に置いてある服で防寒をしっかりとして、玄関から門扉までのアプローチを歩いていると、そう声をかけられて咄嗟に足が止まった。
「…おかえり、千歳ちゃん。」
「美都!?」
思わぬ来訪者に驚いて声を上げたら、つい先日、東京でお茶をしたばかりの彼女は、笑って立っている。
「なんで私が帰ってきたって知ってるの?」
「さあ〜なんででしょう…愛の力?」
「……、」
それはあまり大袈裟では無い気がして、心を完全に弱らせた私はまた泣けて来てしまう。
美都の実家は、うちの家から電車でそう遠くはない場所にある。
だから家に遊びに来ることも全然、昔から不思議ではなかったけれど。
「引越し準備とか、仕事も引き継ぎとか、忙しいんじゃ無いの…?」
「う〜ん、でも私たちのキューピッドが泣いてるってなったら、私も理世も気が気じゃないからなあ。」
「ごめんね。」
そう謝ったら美都はふふ、と悪戯に笑って頭を撫でてくれる。
「千歳ちゃん、今日何時の新幹線乗る?」
「…え、あ、夕方のには乗りたいかな。でも、」
帰るか分からない、という言葉に重ねるように
「オッケー。
ねえ、千歳ちゃん。
私たちの母校、行ってみない?」
綺麗な微笑みのまま提案された言葉に、目をまじろいだ。