エセ・ストラテジストは、奔走する



日々を重ねていったら、良いところも悪いところも含めて勿論当然、いろんな表情が見えてくる。


思ったより朝が弱いところ、
研究に没頭すると連絡が途絶えるところ、
なんでだか練り物が苦手で「おでんは食べられる物が本当少ない」って怒るところ、


だけどその全てが愛しいと思えるくらいには、彼のことが好きだったから。




「千歳。俺は卒業したら、東京に戻る。」

「……」

大学3年の秋。

インターンシップや合同企業説明会、意識なんてしていなくたって、“今後を決める“ための情報が耳に届くようになって暫く。


お互い忙しくて以前に比べて会える頻度は減っていた。

久しぶりにカフェで出会った茅人は、前に比べて少し髪が短くなっていた。

そしてずっと心にあった“気がかり“をとうとう、告げられた。

「院進は、しないの。」

「うん。技術職でも、割と就職してから研修でスキル磨けるとこも多いから、就職する。」

「…そ、う。」


茅人は、元々東京育ちだ。

「母親の実家で、祖父母と暮らしている」と、付き合って暫くしてから、教えてくれた。

昔から好きな本を書いている教授がいるからこの大学を選んだ、とお手本のような志望動機を聞いた時は感嘆しか出なかった。

"私は家から通えるから、だけだったけど
それで茅人に会えて、神様に感謝しないとなあ。"

そう笑ったら「よく照れずに言えんね」とまるで無表情だったけど、やっぱり頬に触れる手つきは優しかった。




「……千歳。」

私の人生設計は、真っ白な空白だけが有象無象に広がっている。

うまく志望動機も自己分析も浮かばない。

だけど、一つだけ。

__“この人と、離れたくない。“

その自分勝手な気持ちだけは、確かに生まれた。



今日出会った時から、茅人のポーカーフェイスには緊張の色が乗っていると何となくわかる。

彼が告げようとしていることも、さすがの私にもわかる。

「……千歳、「茅人。私も、東京での就職を考えてる。」

被せるようにそう言った私に、目の前の彼の綺麗な瞳がみるみる開かれるのをただ、見ていた。


全身が心臓になったみたいに、とても嫌なリズムを保ったまま、確かに大きな拍動が刻まれていく。


茅人がきっと告げようとしていた“別れ“の理由は、無理やり奪った。

自分の発言が、その意味を持つのだと痛いくらいにわかっていた筈なのに。


私は、もう、引き返せなかった。




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