エセ・ストラテジストは、奔走する
◽︎
「千歳ちゃん。」
「あ、ごめん、ぼーっとしてた。」
「…思い出してた?」
かつてのバイト先前でそう言われて、図星すぎる私は情けなく、へら、と笑うしかなかった。
「……千歳ちゃんが“付き合うことになった!“って
私と理世に報告してくれた時、可愛かったなあ。」
「…懐かしいね。」
「…千歳ちゃん。
大学3年になって進路のこと考える時期になって。
証券会社を受けるって言ってた理世はきっと東京に行く。そしたら遠距離になるな、とか、そういう自分のこと考えるのに精一杯だったから。
私はあの頃、あんまり千歳ちゃんの話を聞いてあげられなかった気がする。」
キュ、と私の手を握る美都の顔があまりに深刻で、
そんなことないよ、とすぐに否定して笑う。
「…千歳ちゃん、就職して東京に行くって決めたのは、茅人君が向こうに戻るって知ったから?」
「……、」
______悪用、してくれないんですか。
悪戯にそう言った彼と、その後始まった交際は、順調だったと思う。
大体はポーカーフェイスで、口数が多いわけではなかったけれど。
"…千歳、キスする時は流石に目閉じて。"
"…あ、ごめん、ちょっと、勿体無くて。"
"意味がわからない。"
初デートの帰り道。
そう怒りながらも私の頬に触れた手は、とても優しかった。