エセ・ストラテジストは、奔走する



「…千歳ちゃん。」

痛いくらいに握ってくれている手が凄く優しくて、温かい。

隣でずっと聞いてくれている美都を見たら、彼女の瞳も濡れて透明なまま、輝いていた。


「カタチにならなきゃダメ?」

「…え?」

「カタチじゃなくて、心に残ること、ちゃんとあるよ。」

「……そうかな、」


「私、理世と遠距離するの
すっっごく不安だったって知ってた?」

「…え…?」


「誰にも言えなかった。
不安だって言ったら余計増長する気がした。
理世も、あんなんだけど、内心は不安だったと思う。

…でも千歳ちゃんが卒業するときにね、」


"私の新居は、奇しくもおんぼろだし、お洒落なスタートにならなかったから。

2人が東京で新居構える時のレイアウトは、私も考えさせてね、IKEA行こうね!!“



「……そんなこと言った…?」

「言ったよ、理世も絶対覚えてる。
なんでお前も行くんだよって笑ってたけど
凄く嬉しそうだった。」


ふふ、と可憐に笑う美都がその瞬間、
ぽた、と涙をこぼす。


「…嬉しかったあ。
私達以外の人が、ほんと、あっけらかんとした顔で私たちの未来のこと、全然何の迷いもなく話すんだもん。」


そんなことを思ってくれていたなんて、
知らなかった。


当たり前に量が増えた涙が、寒さの滲む風で化粧の崩れた顔を更にカピカピにしてしまう。


「……だから、茅人君が、千歳ちゃんから何も貰ってないわけない。
そこに気づけない人なら、逆に私は、千歳ちゃんのこと渡したくない。」


「美都、ありがと。

でも、もう私は、
頑張って別れを告げてきたんだよ。」


『____茅人。

“あの時“、綺麗な思い出にできなくてごめんね。

ずっと長い間、縛ってごめんね。』

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