エセ・ストラテジストは、奔走する
そう言ったら美都はぐい、と涙を拭って私の方を見向く。
繋がれた手はあったかいままだ。
「…私がどうして千歳ちゃんがこっちに帰ってきてるって分かったと思う?」
「え、愛の力じゃなかったの。」
「そうだけど、私の愛だけじゃない。」
「…どういうこと。」
「理世から連絡があった。」
「……理世?」
あの男に、地元に戻るなんて私は一言も伝えていないけど。
美都の言ってることがよく分からなくて、戸惑いのままにただ目を瞬かせると美都はスマホを取り出して私の耳に当てた。
「…何?」
「コール終わったら出て。」
「え、私が?」
笑って頷く美都の行動がわからないままに発信音が3回、続いた後。
“美都、千歳から連絡は?“
いつもと少し違う焦った声でも、昨日私に例の雑誌を送りつけてきた男だと、長年の付き合いだからすぐにわかる。
「…理世。」
“千歳!?お前どこいんだよ。電話出ろやぼけ。“
「だ、大学……」
“は?“
「母校に、帰ってきてた。」
“……ヤンキーだったんかお前。“
「違うし。ドラマの見過ぎだよ。」
“…美都と一緒なんだな?“
「うん。」
確認したら長いため息が受話器越しに聞こえて、
ああ、心配をかけたのだと分かる。
「ごめん。
理世、何で私がこっち帰ってきてるって分かったの。」
“何でだと思う?“
「……愛の力?」
“寒。“
美都は、この男のどこがいいのだろう。
埒が開かないからもういい、
そう言って切ろうとすると
“あの人の愛から始まってるって分かってんの?“
「は?」
“お前が大好きで大好きでしょーがない彼氏。“
「……何、言ってんの?」
“俺が送った本に貼ってあった送り状みて、電話してきたんだよ。“
「……、茅人が…?」
聞き返す自分の声が、頼りなかった。