エセ・ストラテジストは、奔走する
千歳は、料理が得意じゃない。
上京してから一度だけ、俺の部屋へ作りにきてくれたことがあったが、何をそんな失敗できたのかと尋ねたくなるくらいの出来だった。
それをテーブルに並べた時の絶望に満ちた顔が、重罪を犯したの如くあまりに深刻過ぎて、俺は笑いを堪えるのに必死だった。
「もう作らなくていい。」
「…ですよね。」
そんな、苦手なことは無理にしなくて良い。
ただ傍に居てくれれば、それで。
そう心では思うくせに、届ける言葉はいつも短く、
甘さなんかひとつも無かった。
それからの千歳の料理は、
もっぱら冬になれば、鍋一択だった。
「野菜切って煮込むのは流石にできる」
と、特にこちらが何か言ったわけじゃ無いのに必死に主張してくるのが、また可愛いかった。
だからこそ。
先週の千歳は明らかに変だった。
朝からがっついてる俺もどうかとは思うけど、月に数回しか会えないと思うと、どうしてもできるだけ千歳に触れていたくなってしまう。
「料理をする」と謎の行動を示した千歳を、キッチンからベッドへ誘導してしまえば、自分より随分小柄な彼女を組み敷くのは造作無いことで。
脱がせ慣れたパジャマに手をかけつつ体の至る所にキスを落とせば、可愛らしい声が上がる。
「…っ、待って、」
__でも、何となく。
「茅人、あの、」
いつもの“待って“とはどこか違うし、
意識が別のところを向いているのは流石に分かった。
歯止めが効かなくなるギリギリで何とか止まった俺が
その違和感を伝えた結果が、
「お味噌汁、作ろうと思って…」
更にその理由は、
「に、日本人の朝食の定番だから…?」
という疑問系の頼りないものだった。
_____意味が、分からない。
改札を出て彼女の家へ歩いて向かう間も、千歳の不可解な答えを思い出しては、違和感に首を傾げた。