エセ・ストラテジストは、奔走する

◻︎


「…是枝、お前何時までやんの?」

「今日は帰ります。」

「え、マジで?あー…俺も帰りたい。」

「今日、営業同行してヒアリングしてきた案件、
まだまだ長引きそうです。」

「お前、帰り際に脅すなよ…
先方、OCRの導入乗り気だったんじゃ無かったの。」

「誤読の確率に相当、難色示してるので。
その辺り納得させる機能つけるとか、対応しないとですね。」

「それは長引くわ。」


土曜日の今日。

クライアントのところへ現段階のヒアリングに行って得た結果は、正直今までの開発が振り出し近くまで戻るほどに“苦い答え“だった。

それを説明すると、先輩の表情もどんどん苦虫を噛み潰したようになる。

本当なら俺も、もっとオフィスに残って進捗を生むべきな気もする。



__でも。


“……えっと。ごはんを、作ろうかと…“


先週の千歳の様子が、どうしても引っかかる。


千歳の部屋に泊まった次の日は、昼近くまで眠りこけてしまう時が多い。

「茅人は朝が弱い」と千歳は言うけど。

俺が何も気にせずずっと寝ていられるのは、隣にちゃんと抱きしめられる温もりがある時だけだと思う。



先週、千歳の家に泊まった時。

がさごそと、まだ朝の早い時間に物音がするのに気づいて、半分意識を眠りの中に置いたまま、それでも目を開けると、いつも俺の腕の中にいる彼女が居ない。


ゆっくり起き上がって、未だ続く物音を頼りにキッチンに向かうと、ギョッとした顔の千歳と対峙した。


何をしてるのかと問いたその答えが、

“……えっと。ごはんを、作ろうかと…“

だった。


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