エセ・ストラテジストは、奔走する
ただ手放したくないと、まるで子供みたいな焦りの中で強く抱きしめていた筈の千歳は、お昼を迎える少し前に、あっさりと俺の腕から離れてベッドを降りた。
そしてすぐ、彼女の小さな話し声が聞こえてくる。
起き上がって声の方へ歩みを進めると、
玄関先で蹲る細い肩が微かに揺れていた。
声をかけると、びく、と驚きの反応と共にこちらを見た千歳は、やはりスマホを胸元に隠す。
「…電話。」
「え?」
「電話、誰?」
「……え、」
焦りが伝わる不安定な瞳が、
真っ赤になって、濡れている。
「なんで泣いてんの。」
「…なんでも、無いよ。」
問いかけを誤魔化す言葉ばかりを並べられ、
それが嘘だということは流石に分かった。
でも上手く言葉が続かない俺は、同じようにしゃがんで、そっと千歳の頬に手を伸ばす。
いっそ。
触れあった先から、
俺が抱く気持ち全てが、伝わってくれれば良い。
そうすれば、千歳は笑ってくれるだろうか。
それとも。
突きつけられる現実に、俺が絶望するのだろうか。
その後届いた宅配物も、自分が受け取ると主張し続けた千歳が、何か隠していることはもう明らかで。
「流石に浮気は、もっと上手くやって。」
湧き上がる焦りや苛立ちは、自分のせいだと分かっていたのに。
ままならない感情を、気付いたら千歳にぶつけていた。
「俺と、別れたいってこと?」
そう確かめた声が苦しく掠れて、震えた。
ボロボロと涙を零しては拭いながら、首を横に振る千歳が何を考えてるのか、分からない。
でもその姿があまりに痛々しかった。
なんで、俺は。
傷つける言葉ならすんなりと、出せてしまうのか。
"…いつもなら、こんなことしない、でしょ?"
あんな風に言わせる馬鹿な自分のせいで、もうとっくに、心変わりをされていたとしても。
__千歳。
それでも俺は、お前が好きだよ。