エセ・ストラテジストは、奔走する
自分の気持ちを、
なんとか言葉に乗せようとした瞬間。
「…そう、だね。茅人には、分からないと思う。」
千歳が分からない、
そう言ったことに対する彼女の返事はどこか客観的で、寂しく聞こえて。
「でも、私は茅人の思ってることは、分かる。」
ぐい、と雑に服の袖で涙を拭って、
こちらに向かって続けられた言葉は、
「別れたいのは、茅人の方、でしょ?」
その場から動けなくなるほどの衝撃を与えた。
やっと、視線が真正面から交わったのに。
千歳は涙を隠せない傷ついた顔のまま、無理やり笑っていて、それに気づいて、うまく声が出せない。
今自分が何を言われているのか、
頭が全く言葉を飲み込んでくれない。
「…茅人。
私、ここ最近ずっと、
ある目的のために色んな策を講じてました。」
「……目的?」
「____“プロポーズしてもらうこと“」
そして続けられた告白は、
予想なんか、全くしてなかった。
"…もし私が上手にお味噌汁作れるようになったら、
茅人は「家庭的だ」って、少し思ってくれるかもしれない。
私はね、茅人のためなら、朝はパンじゃなくなっても、全然、大丈夫。
両親は、流石に東京に簡単に呼べないから。
こっちにいる従兄弟に茅人を鉢合わせて、プレッシャーかけてもらおうかなって思ったこともあった。
それは迷惑かけるだけだなって、結局、やめちゃったけど。
さっき荷物で届いたのは、
かの有名な、ゼクシィです。
こっそり部屋に忍ばせて結婚を意識させたら、って、
大学の時からの友達が、送ってくれたものだよ。
……さっきの電話も、その作戦の話で、浮気じゃない、よ。"
千歳が懸命に語った種明かしの何一つ、俺は知らない。