エセ・ストラテジストは、奔走する
「……茅人。
“あの時“、綺麗な思い出にできなくてごめんね。
ずっと長い間、縛ってごめんね。」
その謝罪は、まるで"これで最後だ"と、
そう伝えているかのような声色で。
告げ終わった瞬間、
千歳は今までで一番、下手な笑顔を浮かべていた。
そのまま何かを振り切るように、パタパタと部屋を出て行く足音だけが、自分の鼓膜で揺れている。
いつから。
いつから、千歳はそんな風に思ってた?
違う。
____いつから俺が、そんな風に"思わせてた"?
さっきの千歳の言葉が、脳内で反芻されてその場から動けなくなるくらいには、自分の胸を貫いていた。
千歳は、いつも真っ直ぐで、明るい。
出会った頃から今もずっと、そうだと思ってた。
あんな表情を、どこに隠してたのかさえ知らない、気づけない愚か者が、滑稽に彼女の居ない部屋で燻っている。
"だ、抱きしめて、くれませんか。"
あの日、銀世界がよく馴染むあの街で、
それに全くそぐわない赤色が差した顔で、
そう言われたことを鮮明に思い出せる。
千歳の一直線で嘘のない言葉は突き刺さって、
あまりに自分とは違って、
目が離せなくて、欲しくなった。
そうやって、貰うばかりで。
俺が千歳に大事な言葉を
ちゃんと音にした記憶が、思い出せない。