エセ・ストラテジストは、奔走する
「お前さ、早く話しかけろよ。」
「へえ、まじで可愛いじゃん。」
「なんて話かけるんだよ、本屋なんかさあ。」
「漫画どこですか、とかで良いだろ。」
「だっせ!!!」
…何の、騒ぎだ。
真嶋からのメッセージをいつものように既読無視して、上着のポケットにスマホを仕舞い込んだ後。
世間一般の冬まではもう少し猶予があるとしても、この土地の寒さの始まりは、当然それよりもっと早い。
少し息を吐けば、すぐに白く舞う冷たい空気を視界に入れながら向かっていた目的地のそばで、ふと、歩みを止めた。
その入り口を塞ぐように、髪色の明るい男達が大声で会話を繰り広げていたからだ。
大学内にある、何の変哲も無い生協の書籍部。
でも生協加入者なら、本や雑貨が定価より安くで購入できたりするし、こじんまりした空間で、入学した頃から割と愛用してきた。
しかし今日は、その行手を阻む男たちが居る。
通行の邪魔だし迷惑だな、と、声をかけようか逡巡したところで、ゆっくりとぞろぞろ書籍部へ入っていったので、俺もその後を追うように店内に入った。
「…すいませーん。
ONE PIECEの新刊って、何処にありますか。」
そして、そのうちの1人が、歯切れの悪さと共に、入り口のすぐそばの本棚を整理していた店員に声をかけた。
この男達は、これが目的で
道の往来を妨げていたのだろうか。
新刊なんだから、"新刊コーナー"にあるだろ。
当たり前の答えを心で呟きつつ、
そのまま素通りしようとしていた足は、
「___この間発売したばっかりのやつですね!
こっちです!」
やけに明るくて聞き慣れない声が耳にす、と届いた瞬間に、無意識に止まっていた。
この書籍部の店員(おばさん達)は大体、顔馴染みだから、咄嗟でも、反射的に違和感を抱いたらしい。
声の方へと視線をやると、
「ご案内します。」
チャラそうな男達を案内するために立ち上がったのは、俺達と同い年くらいの女性。
艶のある黒髪をハーフアップでまとめて、シンプルな服装の上から、いつも見かける店員達と同じように深い青色のエプロンをかけている。
ふわ、と花が咲くような笑顔を見つめていたら、そのまま男達を誘導しつつ、奥の本棚へ向かっていく。
……あの店員は、初めて見かけた。