エセ・ストラテジストは、奔走する
そう思うと同時に、この書籍部にどう考えても異質なさっきの男達の"本当の目的"を知った。
漫画の所在地を教え終わって、再び本棚の整理作業に戻った女性は、おそらく先程の一連の流れについて、何も気に留めていない。
チラチラと再び入り口付近で様子を伺っている男達を視界の端で確認すれば、もうなんとなく、見過ごすことが出来そうに無い。
……俺には、直接関係無くても。
この気に入っている場所を荒らされるのは、困る。
「__あの、ちょっと良いですか。」
「はーい。」
そんなことを思いながら、平静を保って話しかけたら、やはり明るい返事が返されて。
そのまま振り返って、長い睫毛に縁取られた大きな瞳ときちんと視線が合った瞬間、意図せず鼓動が大きく鳴った。
「…あの、文藝春秋ありますか?」
本当に今日ここに来た目的だった本について告げれば、直ぐに確認して、入荷が雪のせいで遅れていると教えてくれる。
「雪国で、すみません。」
困った顔で真剣に言われて、思わず笑いそうになるのを耐えた。
その謝罪は、初めて受けた。
そう言うと、自分の発言を振り返って少し気恥ずかしそうに彼女も瞳を優しく細めた。
「あの、入荷したらご連絡もできます!」
再び視線を向けた先では、入り口の男達は居なくなっている。
とりあえず大丈夫そうだと、また出直そうとしたところで、彼女の方からそんな風に提案を受けて。
「お願いします。」
それは、半ば無意識領域の中での返事だった。
やっぱり、ふわりと笑って頷く彼女に手を伸ばしたい衝動が芽生えて、戸惑って。
誤魔化すように、
入荷の通知依頼書に必要事項の記入をした。
今思えば、もう、とっくの最初から。
声をかけたのなんか、
確実に"他の男への牽制"、それしかなかった。