エセ・ストラテジストは、奔走する
____遡ること、2日前。
「ほーん?」
「ほーん、て。」
「とりあえず、作戦は終了したのね。」
「…うん。亜子ちゃんにも心配かけてごめんね。
今日は何でもお召し上がりください。」
「まあ私、別に何もしてないけどね。」
ふ、と美しいパーツばかりが揃った顔を少しほぐして笑う亜子ちゃんは、綺麗にワイングラスを仰ぐ。
茅人に会ってもらう、という謎の作戦を持ちかけっぱなしになっていた私は、前に一緒に訪れたスペインバルに彼女を呼び出して、事の顛末を話し終えた。
「じゃあ今、
結婚に向かって超ラブラブモードってことね。」
「…う、うん。」
「何その変な返事。」
「……」
世間一般で考えた時、カップルの“ラブラブ“って、
何をどう、意味するのだろう。
私の歯切れの悪さに眉を顰めた亜子ちゃんの鋭い瞳に
は何となく逃げられなくて、口がするすると滑る。
「……あのさ。」
「うん?」
「私の友達の話なんだけどね?」
「あんた、その話の始め方が私に通じると思う?」
「…そこは無理やり信じてよ。」
「もう破綻してんだけど。まあいいわ。」
バレバレな中で語るのは辛いと思いつつ、
仕切り直しのような咳払いをして、言葉を繋ぐ。
「……その、ソウイウこと。」
「…ソウイウこと?」
「もう、何週間もしてないらしいんだけど。
カップルって、
どのくらいの頻度でするのが、普通なのかな。」
「………」
言い終えると亜子ちゃんが、
眼をぱちぱちと瞬いているのを確認した。
完全に私の発言のせいだけど、訪れた沈黙に居た堪れなくなって、視線をテーブルに落とす。
お洒落なボードに盛り付けられたチーズを一心に見つめながら、やはり自分の失言に遅すぎる後悔が襲った。