イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
「さあ、どうぞ座って」
「はい」

今までなら面接にたどり着くだけでもずいぶん苦労したのに、電話一本でその日のうちの面接。
普段着のまま来た萌夏に表情を崩すこともなく、対応してくれる。

「接客業は初めてなの?」
「え、ええ」

ここは繁華街にあるクラブ。
時給3000円で裏方のバイトが出ていて連絡を取った。
きっと皿洗いくらいだろうと思ったし、人前に出ることもないと高をくくっていた。

「せっかくだからお店に出てみない?」
「はあ?」
ママらしき女性の言葉に、萌夏が声を上げる。

それは話が違う。
さすがにホステスをするつもりはないし、この性格が向いているとは思えない。

「裏方のバイト求人を見て伺ったんですが?」
きっぱりと断ろうとする萌夏に、

「裏方の3倍は稼げるわよ。週6のバイトと同じお金が週2で稼げるのよ?」

ウッ。
痛いところをついてくれる。

「悪いことは言わないから、一度体験のつもりでやってみなさい。それでも嫌なら皿洗いでも何でもやらせてあげるから」
「でも・・・」
即答できない萌夏。

しかし相手は一枚も二枚も上手で、
「とりあえず明日いらっしゃい。ドレスもみんな用意しておくから。ねぇ?」
「はあぁ」
こうなれば、萌夏にかなうはずもない。

押し切られる形で約束をし、萌夏のバイトが決まってしまった。
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